宇宙のロボット技術で農業を楽にしたい、東北で挑むイスラエル生まれの起業家:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(3)(4/4 ページ)
本連載では、厳しい環境が続く中で伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は農業向けAIロボットを開発する「輝翠TECH」を取材しました。
「農業は肉体労働の積み重ね」農家さんの実態を知る
タミルさんへの取材に続けて、ADAMの実地検証の現場も取材しました。
訪れたのは、千葉県の北東部に位置する山武郡横芝光町で、梨や米、野菜などを栽培されているアグリスリーさんの梨園です。梨園は観光農園「梨工房 城山みのり園」として運営されており、直売所の他、もぎり体験をすることができる農園となっています。
梨棚。1本の幹に別の品種の枝を継ぎ、ひとつの棚で複数の品種を栽培されているそうです。訪れたのは10月中旬で最盛期の後とのことでしたが、まだたくさんの実がついていました[クリックして拡大] 出所:ものづくり新聞
ADAMの開発に協力されているアグリスリーの代表、實川勝之(じつかわ かつゆき)さんは、実際の梨の収穫作業の工程を説明しながら、ADAMの改善点や要望を丁寧にフィードバックされていました。
普段の収穫作業では、「ポテ」と呼ばれるカゴに収穫した梨を入れ、満杯になったら台車やトラックに積んだコンテナに移し替えるという流れで作業しているそうです。
肩から下げているカゴが「ポテ」です。満杯時には約10kgの重さになります。コンテナを積んだトラックまでポテを運びます。
実際に梨を入れたポテを持たせてもらったありすさん。少し持っただけで肩が痛くなってしまったそうです。これを持ってコンテナまで何往復も歩くとなると、大変な重労働です。農家の方々のご苦労を実感しました。
ADAM、出動!
いよいよ実際の作業に合わせてADAMを走行させてみます。現在のADAMは試作段階で、コントローラーで操作しています。しかし、ゆくゆくは人を感知して、距離を適正に保ちながら自動的についていくことができるよう開発が進められています。目の前の未来的な農業の光景に、思わず驚きの声が上がりました。
そして、普段使う台車の仕様や作業の様子も見せてもらい、負担が少なく作業がしやすい高さ、効率的に運ぶために1台に載せたいコンテナの数など、求められるニーズを隅々まで細かくヒアリングする姿が印象的でした。
2023年春の製品化へ向けて
2022年の春に試作機の第2号となるこのADAMを公開し、青森や千葉、愛知、福島などのりんご、ぶどう、梨などさまざまな農家でフィールドテストとインタビューを行ってきた輝翠TECH。凹凸や急斜面などの不整地、土壌の性質など育てる作物によって農地の特徴もさまざまなものがある中、ロボットの有用性と開発課題を確認してきたと言います。
今後は自動搬送だけでなく、草刈りや農薬の散布などの機能をオプションとして付け、年間を通して農作業に貢献できるロボットへと開発を進める予定とのことでした。
2024年には量産も目指しているということで、製造のパートナーとなってくれるものづくり企業も探されているそうです。
輝翆TECH株式会社
代表:タミル・ブルーム / Tamir Blum
本社所在地:宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-40
事業内容:農業用AIロボット、画像認識、データサイエンス
会社URL:https://kisuitech.com/
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著者紹介
ものづくり新聞
Webサイト:https://www.makingthingsnews.com/
note:https://monojirei.publica-inc.com/
「あらゆる人がものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」をビジョンに、ものづくりの現場とつながり、それぞれの人の想いを世界に発信することで共感し新たな価値を生み出すきっかけをつくりだすWebメディアです。
2023年現在、100本以上のインタビュー記事を発信し、町工場のオリジナル製品開発ストーリー、産業観光イベントレポート、ものづくり女子特集、ものづくりと日本の歴史コラムといった独自の切り口の記事を発表しています。
編集長
伊藤宗寿
製造業向けコンサルティング(DX改革、IT化、PLM/PDM導入支援、経営支援)のかたわら、日本と世界の製造業を盛り上げるためにものづくり新聞を立ち上げた。クラフトビール好き。
記者
中野涼奈
新卒で金型メーカーに入社し、金属部品の磨き工程と測定工程を担当。2020年からものづくり新聞記者として活動。
広報・マーケティング
井上史歩
IT企業の広報在籍の後、ものづくり新聞にジョイン。ものづくり業界で働く女性のための新企画を制作中。
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