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熱活性型遅延蛍光材料の発光強度の時間変化を数秒で計測する技術を開発:研究開発の最前線
産業技術総合研究所は、熱活性型遅延蛍光材料から放射される発光強度の時間変化を、数秒で計測する技術を開発した。
産業技術総合研究所は2023年3月22日、熱活性型遅延蛍光材料(TADF材料)から放射される発光強度の時間変化(過渡発光データ)を、数秒で計測する技術を開発したと発表した。得られた大量の過渡発光データを活用した深層学習により、次世代の有機EL用発光材料であるTADF材料の設計に応用できる。
TADF材料の過渡発光データには、レーザー光を試料に照射してから発光するまでの時間帯が大きく異なる瞬時蛍光と遅延蛍光という2種類の発光が含まれる。瞬時蛍光がナノ秒の極めて短い時間だけ光るのに対し、遅延蛍光はマイクロ秒以上と瞬時蛍光よりも1000倍以上も長く光る。また、遅延蛍光の発光強度は、瞬時蛍光の100分の1から1万分の1程度で観測される。
同技術では、瞬時蛍光の信号の一部を除去できる電圧制限増幅器を組み込んだ光検出器を作製可能。速度の異なる3つの光検出器を自動的に切り替える装置を用いて、デジタルオシロスコープで計測したデータをプログラムで1つにつなげた。その結果、サブナノ秒(0.1ナノ秒)からミリ秒以上の幅広い時間範囲で、従来法を越える7桁以上の光強度範囲の計測が可能になった。約3時間かかっていた計測時間も3秒と大幅に短縮された。
深層学習への応用として、27種類のTADF材料の過渡発光データを基に、意図的にノイズを加えた2700個のデータと27種類の分子の結び付きを学習させたところ、99%以上の精度で、全てのデータが正しく認識されることを確認した。
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