3D細胞プリントで食用培養肉製造目指す共同事業体設立、大阪万博で成果披露:3Dプリンタニュース
大阪大学大学院 工学研究科、島津製作所、伊藤ハム米久ホールディングス、凸版印刷、シグマクシスは“3Dバイオプリントによる食用培養肉製造技術に関する社会実装の具体的な取り組み”を目的とする「培養肉未来創造コンソーシアム」を設立した。
大阪大学大学院 工学研究科、島津製作所、伊藤ハム米久ホールディングス、凸版印刷、シグマクシスは2023年3月29日、“3Dバイオプリントによる食用培養肉製造技術に関する社会実装の具体的な取り組み”を目的とする「培養肉未来創造コンソーシアム」を設立した。
同コンソーシアムでは、産学や企業の垣根を越えた協業により、「3Dバイオプリント技術の応用開発」「生産・流通までの一貫したバリューチェーンの確立」「省庁や民間企業との連携による法規制整備への貢献」を推進。同時に「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」の「大阪ヘルスケアパビリオン」における培養肉自動製造装置(ミートメーカー)の展示など、生活者の理解促進につながる情報発信に注力し、世界に先駆けて培養肉食用化の実現を目指す。
さまざまな強みを有する企業や大学、研究機関などと連携し、3Dバイオプリントによる食用培養肉製造技術の社会実装を目指す同コンソーシアムは、技術開発、省庁や関連団体との連携、対外情報発信を行う「運営パートナー」、特定の技術領域について共同研究に取り組む「R&Dパートナー」、培養肉関連の技術/製品の普及に向けた情報発信を担う「社会実装パートナー」で構成される。
運営パートナーは、大阪大学大学院 工学研究科、島津製作所、伊藤ハム米久ホールディングス、凸版印刷、シグマクシスの5者が務め、R&Dパートナーと社会実装パートナーについては、多様な領域から広く募集するという。
3Dバイオプリントによる食用培養肉製造の社会実装に向けて、細胞採取、細胞加工、3Dプリント、食味/品質評価、加工パッケージ、物流、販売などの工程が考えられるが、「これら工程の大枠に関しては5者の協業である程度カバーできると考えているが、足りない部分に関しては、多様な領域から募った企業や大学、研究機関などの新たなパートナーの力を借りることで補っていきたい」と、大阪大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 教授の松崎典弥氏は述べる。
キーとなる3Dバイオプリント技術は、大阪大学大学院 工学研究科が開発したもので、筋肉組織構造を自在に作成することができ、食糧や再生医療、創薬分野での利活用が見込まれている。
2021年8月に、大阪大学大学院 工学研究科、凸版印刷らが、筋/脂肪/血管の異なる線維組織を3Dプリントし、それらを束ねて統合する技術に関する論文を発表。その後、この技術をベースに、大阪大学大学院 工学研究科、島津製作所、シグマクシスが2022年3月に「3Dバイオプリント技術の社会実装」に向けた協業契約を締結し、実用化への取り組みをスタートさせている。
今回設立した培養肉未来創造コンソーシアムでは、新たな協業メンバーとして食肉の知見を有する伊藤ハム米久ホールディングスを加えることで、関連技術などのさらなる発展、加速を狙う。なお、同コンソーシアム設立に先立ち、5者は「3Dプリントによる食用培養肉技術の社会実装」に向けた合意書を2023年1月に調印し、活動に向けた体制を構築している。
さらに、同コンソーシアムの設立に併せて、大阪大学大学院 工学研究科、伊藤ハム米久ホールディングス、凸版印刷は、大阪大学 吹田キャンパス内に「培養肉社会実装共同研究講座」を開所。同じ建屋にある「大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所」とも連携しながら、3Dバイオプリント培養肉作製技術の確立、ミートメーカーの開発、社会実装フィージビリティスタディの実施などに取り組む。
「培養肉未来創造コンソーシアムのミッションは大きく2つある。1つは大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンでのミートメーカーなどの展示だ。この展示を通じて、未来の食の在り方や食生活の変化について提示したい。もう1つは、将来的な食糧危機の解決やSDGs(持続可能な開発目標)への貢献だ。大阪・関西万博までに基礎技術を磨き上げ、その後、社会実装できるような形にして、ビジネス化を含めた展開、世界への貢献を目指したい」(松崎氏)
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