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先進国では最低クラス、日本の「実質的な」平均給与の成長率を検証する小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(8)(3/3 ページ)

ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。第8回では、実質成長率に注目して日本と他国の比較を行っていきます。

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「実質」を見るときの注意点

 先に説明した通り、「実質値」は名目値を物価指数で割った数値です。この計算に用いられる物価指数は、経済指標によって異なります。例えば、名目GDPを実質GDPに変換する際には「GDPデフレータ」という物価指数が使われます。

 OECDの平均給与では「家計最終消費支出デフレータ」が、毎月勤労統計調査の実質賃金指数の場合は「消費者物価指数」が用いられます。OECDの統計データと日本の統計データで傾向が違うのは、名目値を実質値に変換する際の物価指数が異なるためです。

 図4では消費者物価指数、GDPデフレータ、家計最終消費支出デフレータを比較しました。


図4:日本における各物価指数の比較[クリックして拡大] 出所:総務省統計局データとOECD統計データを基に筆者にて作成

 1991年を基準(=1.0)にして、各年の変化率を計算しています。消費者物価指数(赤)は長らく横ばい傾向にありましたが、近年上昇してプラスに転じています。

 GDPデフレータは1994年をピークに、2000年以降は大きく減少しましたが、2014年からはやや上昇傾向にあります。家計最終消費支出デフレータは消費者物価指数とGDPデフレータの中間におおむね位置しています。同じく物価を表す指数でも、これだけ傾向が異なってくるわけです。

 毎月勤労統計調査の実質賃金指数は、名目値を消費者物価指数で割ります。つまり1以上の数値で割ることになりますので、名目値よりも実質値の方が目減りすることになります。

 一方で、OECD統計データの平均給与は家計最終消費支出デフレータで割ります。ですから基本的に1未満の数値で割ることになりますね。ということは、その分実質値がかさ増しされて計算されます。

 このように、物価指数の違いによって、計算される実質値も異なります。統計データで実質値を見る場合には、物価指数の基準年を確認することも重要ですが、物価指数として何を用いているかを見ることが大切です。

 日本の場合は名目値と物価指数が停滞傾向にあります。さらに使用される物価指数の間でも数値に乖離が生じているため、この辺り、特に注意が必要でしょう。

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筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


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