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「FabLab」から「FabCity」へ、「メイカーズ」から「循環者」へ環デザインとリープサイクル(8)(3/3 ページ)

連載「環デザインとリープサイクル」の最終回となる第8回では、これまでの連載内容を振り返りながら全体を総括する。

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「メイカーズ」から「循環者」へ

 連載第6回でも触れたように、「循環」という言葉の定義は広い。筆者たちがリサイクリエーション 慶應鎌倉ラボで主に進めているのは、地域の資源を材料まで戻し、大型3Dプリンタを用いて長期にわたって使用される「公共のストック(都市の持続性を高める新アイテム)」を作るアプローチである。しかし、これだけが「循環」ではない。

 2022年4月の「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(以下、プラスチック資源循環促進法)」の施行以来、多くの企業が自社製品を回収して水平リサイクル(同一製品から同一製品へ)する試みを開始している。また、生分解性プラスチックや微生物の力を用いて、プラスチックを土壌分解や海洋分解しようという試みも多数出てきている。生ゴミをコンポストで土に還す生活をしている人は一定数いるが、さらに、生分解プラスチックをコンポストで分解しようという試みも、再び増えてきつつある。

 ここで「再び」と書いたのは、かつて2001〜2002年にドイツのカッセルという人口20万人規模の都市で「カッセルプロジェクト」と呼ばれる有名な社会実験が行われたことがあったからだ。これはトウモロコシやジャガイモから作った生分解性プラスチック製品を街に普及させ、使用後は回収してコンポスト化し、さらにそのコンポストを使いトウモロコシやジャガイモをまた育てるという「生物的循環」を行う社会実験だった。

 今、都市部にはタイプの異なるいくつかの「循環」の試みが同時に発生しつつある。これをあえて3種類まで縮減して整理するならば、「フロー型循環(主に企業による水平リサイクル)」「ストック型循環(資源を集めて街の公共財を作る)」「生物型循環(土に還し、野菜や花を育てる)」の3つの循環である。

 筆者たちはこの3つに対して、別のもっと平易な一般的な呼び方を与えることを議論してきた。そこで2022年末に考案されたのが「社会でまわす」「未来へのこす」「地球にかえす」という3つのフレーズであった。

「社会でまわす、未来へのこす、地球にかえす」の3重の循環ループの中に生きる「循環者」
図6 「社会でまわす、未来へのこす、地球にかえす」の3重の循環ループの中に生きる「循環者」。このモデルは、エレン・マッカーサー財団による「バタフライダイヤグラム」の一発展形として「カタツムリダイヤグラム」と仮に名付けている[クリックで拡大]

 そして、筆者はこの社会モデルの中心には、「循環者」という新たな市民像を置きたいと思った。2011年に日本でファブラボを立ち上げるとき、そしてそれがメイカ―ムーブメントとして大きなうねりになるときには、全ての人が「モノづくり」をする未来を妄想していた。しかし、現在では「モノ(物質)」にまつわる全ての工程――すなわち、資源から材料、材料から製品、製品からリサイクル、そして再利用、循環へとつながる「バリューチェーン」全体に対して、多様な方法で参加できることが、本当に目指すべき社会である、と考えるようになった。「モノを作る」というだけではなく、「作る」という言葉の範囲がバリューチェーン全体にまで大きく拡大したのである。

 かつて、ある人物がITを「情報処理」技術と呼ぶことになぞらえ、「ファブは『物質処理』技術である」との定義を語ってくれたことがある。確かに「モノづくり」という言葉で考えているよりも、「物質処理技術」という言葉でその可能性を捉えた方が、扱える範囲や想像力の射程が広く、ITとの近接性が感じられる言葉になる。しかし、当時の筆者は物質処理技術という言葉の響きに、どこかしらドライで、非人間的なものを同時に感じていた。そのため、広くこの定義を使用することをためらっていた部分がある。

 だが、今になって思えば、現代における物質処理技術とは、まさに「循環系を作る」ことに他ならない。循環を作る(循環を作ることのどこかに携わる)人々が、循環者であるとすれば、ファブシティーとは結局、「循環者になる街」のことではないか――。10年がたち、筆者はようやく、このように考えられるようになった

 これまでの10年は、日本でファブラボを立ち上げてから、メイカームーブメントを経て、多数のスタートアップが「群」として成長するまでの10年でもあった。次の10年は、日本でファブシティーが立ち上がり、その街に住む「循環者」が成長し、その流れの中から、多様な産業と文化(例えば「サーキュラースタートアップ」と呼ばれているような)が花開くことになるだろう。それは、メイカームーブメントのような熱狂的で派手なものにはならないかもしれない。しかし、静かに、着実に進む、新しい動きになるはずだ。

 筆者は鎌倉という地にその実践拠点を置き、ファブシティーのコンセプトを「循環者になる街」と再度自分たちなりに定義し直した上で、その成果を世界へと発信していきたい。

インドネシアブータン 図7 (左)インドネシアからの慶應鎌倉ラボへの訪問(2022年)/図8 (右)ブータンからの慶應鎌倉ラボへの訪問(2022年)[クリックで拡大]
イタリアとフィンランドカンボジア 図9 (左)イタリアとフィンランドからの慶應鎌倉ラボへの訪問(2022年)/図10 (右)カンボジアからの慶應鎌倉ラボへの訪問(2023年)[クリックで拡大]

連載の最後に

 本連載で述べてきた未来ビジョンを基に応募提案をした「リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』共創拠点」は、今回文部科学省・JSTの共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)地域共創・本格型に採択され、2023年度から2032年度までの10年間にわたる長期プロジェクトとして正式に開始されることになった。これは、2021年にCOI-NEXT地域共創分野に育成型として採択された「デジタル駆動超資源循環参加型社会共創」の発展進化版であり、筆者はそのリーダーを務める。今後の活動もまた折に触れて紹介したい。 (連載完)

⇒ 連載バックナンバーはこちら

Profile

田中浩也

田中浩也(たなかひろや)
慶應義塾大学KGRI 環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター長
慶應義塾大学 環境情報学部 教授

1975年 北海道札幌市生まれのデザインエンジニア。専門分野は、デジタルファブリケーション、3D/4Dプリンティング、環境メタマテリアル。モットーは「技術と社会の両面から研究すること」。

京都大学 総合人間学部、同 人間環境学研究科にて高次元幾何学を基にした建築CADを研究し、建築事務所の現場にも参加した後、東京大学 工学系研究科 博士課程にて、画像による広域の3Dスキャンシステムを研究開発。最終的には社会基盤工学の分野にて博士(工学)を取得。2005年に慶應大学 環境情報学部(SFC)に専任講師として着任、2008年より同 准教授。2016年より同 教授。2010年のみマサチューセッツ工科大学 建築学科 客員研究員。

国の大型研究プロジェクトとして、文部科学省COI(2013〜2021年)「感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会」では研究リーダー補佐を担当。文部科学省COI-NEXT(2021年〜)「デジタル駆動超資源循環参加型社会共創拠点」では研究リーダーを務めている。

文部科学省NISTEPな研究者賞、未踏ソフトウェア天才プログラマー/スーパークリエイター賞をはじめとして、日本グッドデザイン賞など受賞多数。総務省 情報通信政策研究所「ファブ社会の展望に関する検討会」座長、総務省 情報通信政策研究所 「ファブ社会の基盤設計に関する検討会」座長、経済産業省「新ものづくり検討会」委員、「新ものづくりネ ットワーク構築支援事業」委員など、政策提言にも携わっている。

東京2020オリンピック・パラリンピックでは、世界初のリサイクル3Dプリントによる表彰台制作の設計統括を務めた。


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