「FabLab」から「FabCity」へ、「メイカーズ」から「循環者」へ:環デザインとリープサイクル(8)(2/3 ページ)
連載「環デザインとリープサイクル」の最終回となる第8回では、これまでの連載内容を振り返りながら全体を総括する。
地域資源循環プラットフォームと「環デザイン」の可能性
コロナ禍の経験を経て、あらためてファブシティーのコンセプトをじっくり検討してみると、「3Dデータを遠方の人々に送ること(Data-In,Data-Out)のDX」は、もはや技術的に完全に実現していることが分かる。逆に、全く手が付けられていないのは「地域で排出される資源を再度材料として再利用できるようにしながら作る」サーキュラーな仕組みの方であった。情報世界よりも、物理世界の方が課題が山積しているのである。
また、東京2020大会の表彰台プロジェクトからも課題は残った。それは、全国規模の活動であったが故に、日本各地での使用済み洗剤パウチの回収から、それらを保管する倉庫や実際に処理をするリサイクル工場までの輸送距離が長く、その過程のCO2排出も少なくなかったことである。そもそも、ファブシティーの構想は、「国」ではなく「都市や地域(シティー)」を対象としている。市民参加型のリサイクルを実現するにしても、国レベルというより、都市や地域へとエリアを縮減/コンパクト化し、輸送によるCO2排出を減らしていく必要があることは明らかであった。
こう考えたとき、課題は明確であった。そもそも、自らの地域で、いつ、どこに、どのような資源が発生し、回収され、それがどこに運ばれて、何に活用されているのかの実態を把握している人は誰もいないのである。コロナ禍で、自宅で過ごす時間が増え、自らの生活から排出している「ゴミ」への気付きが増えた人は多かったと思われるが、他方、そこから出されたゴミや資源がどこへ行っているかは、全く分からない。コロナ禍で私たちの多くが多用した「UBER」や「Amazon.com」では、家に届く予定の商品が今どこを通っているかを逐一確認できる。他方、家から排出された資源やゴミについては、その後の行方が全くトレース不可能である。
そこで、われわれが構想したのが地域の資源の流れを「見える化/分かる化」するためのプラットフォーム「LEAPS(Local Empowerment and Acceleration Platform for Sustainability)」であり、その開発は今も継続中である。
既に回収されている資源の流れを「見える化/分かる化」することのさらに先には、「まだ潜在的に眠っている、循環利用可能な資源」を新たに発掘して、都市生活の中で有望な新たな活用先を導き出し、回路をつなげていくための方法論が必要であると思われた。都市の中で通常は捨てられ、焼却や埋め立てされている資源を抽出し、要素と要素をつなげていくと、「輪(サーキュラー)」ではなく「網」や「渦」のような系が描かれる。そして、それは都市の中に新しい循環の回路を生み出す方法であると同時に、われわれの都市生活の現実をよく理解し、観察するための方法でもあると思われた。
例えば、回収される資源には季節性(例:秋になると落ち葉が増える)があり、地域性(例:飲食店街ではコーヒーかすが多い)がある、そして、それらを何と組み合わせて、何に変えていくのかの企画検討の際、周辺に何があるか(例えば、畑があるか?)、その地域に住む人がどんな暮らしをしているかを把握することが大切になる。すなわち、この技法は自分たちの都市生活のリアルを理解するための観察と編集の方法として有効だと思われた。筆者はこれを「環デザイン」と名付けることにした。
リサイクリエーション 慶應鎌倉ラボ
現状観察と編集のための環デザインと、未来構想と設計のためのリープサイクルという2つの新しいデザインコンセプトの有効性を研究するための総合的な実践の場として、新しい地域ラボが必要となった。
このラボは、都市の潜在資源を発掘しながら「都市の持続性を高めるために必要なもの」を共創的に考え、共に作る役割までを担う。その中核を担う設備は、東京2020大会表彰台プロジェクトを通じて完成した「混合リサイクル式大型3Dプリンタ」(エス.ラボ製)を中心とした、コンパクトなリサイクル設備群である。
2022年6月、JR鎌倉駅から徒歩5分の場所に「リサイクリエーション 慶應鎌倉ラボ」が発足した。鎌倉という場所は、渡辺ゆうか氏とともに日本で最初のファブラボを立ち上げた場所であり、鎌倉市は日本で最初のファブシティー宣言がされた自治体でもある。
このラボで最初に制作されたのは、緑色の「しげんポスト」という新種の資源回収ボックスであった。しげんポストは、鎌倉市で運用されているデジタル地域通貨「クルッポ」と連動している。現在はこのポストで、洗剤詰め替えパウチを常時集めている。
ここで集まった資源は、他ルートで回収された別のリサイクル材料とともに、われわれのラボ独自の方法/調合でブレンドされ、3Dプリント用の材料に生まれ変わる。それを用いて、街のベンチをはじめとする公共アイテムなどを3Dプリント製作する活動が動き始めている。
こうしてようやく、(1)デジタル化によって輸送によるCO2排出などを削減しながら、(2)リサイクルによって地域で排出される資源を再利用/再生利用できるようにし、(3)「都市の持続性を高めるために必要なもの」を、必要に応じてアイデアを出し合いながら共創的に作れるような仕組みとしての、本来のファブシティーが具体的に現れつつあるのだ。
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