断熱性と電波の通りを両立する、ミリ波を遮らないエアロゲル素材の窓:イノベーションのレシピ
NTTドコモは高い断熱性と電波透過性を同時に実現したエアロゲル素材の窓を展示する。
NTTドコモは2023年2月2〜3日にかけて、同社の最新技術や研究成果を展示する「docomo Open House'23」を開催する。その中に、エアロゲル素材を用いることで、5Gなど高周波電波を透過しやすくした「窓」の展示物がある。
電波の通りと断熱性を両立
近年、住宅やオフィスなどでは壁や窓ガラスなどに断熱性の高い素材や多層化したガラスに加えて、間に熱伝導性を抑える金属の薄膜を挟んだLow-Eガラスなどの採用が進んでいる。これらの素材は建物の高断熱化を実現する上では役立つが、セルラー通信などで用いられる高周波電波を透過させにくいという問題がある。
一方で、エアロゲルは高い高断熱性を持ちながら、空気に近い誘電性を持つことが知られている素材である。こうした性質を活用して、住宅やオフィスなどの壁や屋根、天井にエアロゲル素材の窓を部分的に取りいれて適切に配置できれば、電波の通りが良く、断熱性にも優れた屋内空間を実現できる可能性がある。
展示場のデモ環境では、エアロゲルとLow-Eのそれぞれで作られた「窓」を、暗室内の送受信アンテナの間に設置して、5Gのミリ波を透過させる実験を行う。Low-Eを用いる場合、ミリ波はほとんど透過せず、電波に乗せたデータをほとんど復調することができない。しかし、エアロゲル素材の窓を使った場合、送受信アンテナの間に何も置かない場合とほぼ同程度、電波を透過することが分かる。
NTTドコモの担当者は「具体的な適用領域が定まってるわけではないが、工場など産業領域への適用も十分あり得るだろう。工場における5G利用に際して活用できないかと関心を持つブース訪問者もいた」と語る。
現在、エアロゲル素材の窓はYKK APと共同で開発を進めている。2023年1月30日からはドコモR&Dセンタ(神奈川県横須賀市)で大型電波暗室を活用した実証実験を開始した。実験ではNTTドコモが電波特性の測定や構造の電波シミュレーションを担当し、YKK APが住宅の壁や天井などのサンプル住宅構造モデルと住宅測定環境を提供する。実験を通じて、携帯電話などで用いられる周波数帯の電波について、エアロゲル素材の窓の透過特性を測定することを目指す。
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