5Gの本格普及を加速、「日本初」のE2Eインフラ環境を提供する5Gオープンラボ:製造業IoT
シスコシステムズは2020年11月12日、E2Eで構築された「完全な」5G通信ネットワークアーキテクチャを利用できるオープンラボ「5Gショーケース」をオープンした。利用者は、通信事業者とサービスプロバイダーの模擬システムで構成された5Gリファレンスアーキテクチャを利用して、5Gサービスやソリューション開発が行える。
シスコシステムズ(以下、シスコ)は2020年11月12日、E2E(End to End)で構築された5G通信ネットワークアーキテクチャを利用できるオープンラボ「5Gショーケース」のオープンを発表した。同ラボは東京ミッドタウン(東京都港区)のオフィス27階に設置されている。ラボ利用者は、通信事業者とサービスプロバイダーの模擬システムで構成された5Gネットワーク全体を使って、5Gサービスやソリューションの開発が行える。
5Gサービス、ソリューションの「完全な」デモ環境
5Gショーケースは、インフラアーキテクチャを提供する通信事業者と、5Gサービスやソリューションを提供するサービスプロバイダーのネットワークを模擬的に再現した5Gリファレンスアーキテクチャを提供するオープンラボだ。端末基地局やエッジ端末、コア、全体のオーケストレーションなど、本番環境で求められる5Gアークテクチャの構成要素を省くことなく用意した。5GのネットワークアーキテクチャをE2Eで提供するラボは「日本初」(シスコ)だという。
シスコシステムズ 業務執行役員 情報通信産業事業統括 システムズエンジニアリング本部長である吉田宏樹氏は、「実社会の期待に応え得る5Gサービス、ソリューションの研究開発やPoC(概念実証)を進める上では、本番環境に近いE2Eのデジタルアーキテクチャを備えたデモ環境が欠かせない。しかし、現在国内にある5Gオープンラボのデモ環境は、5G通信に対応した端末と、あとはデバイスやアプリケーションが少しだけ用意されているというシンプルなものがほとんどだ。これに対して5Gショーケースは完全なデモ環境を備えている。当社やエコパートナーのソリューションを組み合わせてインフラのレファレンスデザインを設計し、5Gのアプリケーションを開発、体験できる」と説明した。
5Gショーケースはオープンラボとして外部利用者に開放しており、通信事業者や企業、公共機関、シスコのエコパートナーなど多様なプレイヤーが利用できる。利用企業にとっては、5Gショーケースを用いることでデモ環境を構築する手間を省力化できる他、コスト削減も図りやすいというメリットがある。
5Gインフラに求められる要件は4Gまでとは異なる
吉田氏は、産業界全体への5G通信の本格的普及が持つ意味について、「4Gまでのネットワークインフラはゲームや動画再生時の、ネットワークの接続性などが取り沙汰されることが多かった。しかし、5Gでは事情は異なる。遠隔医療やスマートファクトリー、各種IoT(モノのインターネット)の試み、自動運転、MaaS(Mobility as a Service)、スマートシティ構想に基づく街づくりなどあらゆる産業で、新しいサービスを5Gで実現しようとする動きが広まっている。こうした状況では、ネットワークアーキテクチャに求められる要件もまた違ったものになる」と指摘する。
その具体的な要件として吉田氏は、「多様なネットワークアクセス方式を統合管理する機能」「分散コンピューティングへのセキュリティ対応」「クロスドメインのAPI連携」「E2Eでのネットワークスライシング」などを例として挙げた。
例えば、ネットワークアクセス方式の統合管理が要件となる背景には、5Gが本格的に普及しても全ての通信方式が5Gになるわけではないという事実がある。Wi-Fi6やLTE、ローカル5Gなどそれぞれを状況に応じて使い分け、個々にポリシーを適用してマネジメントする必要がある。また、セキュリティ面では、5Gの低遅延性は分散コンピューティングの広まりに貢献すると期待されるが、そうするとアーキテクチャ自体の分散化も求められることになる。すると、分散化に伴うセキュリティの弱体化が懸念点となるため、新たに対策を施す必要がある。
これらの要件に応える5Gサービスやソリューションを創出するには、通信事業者と5Gサービスやソリューションを提供するサービスプロパイダーが、既存のネットワークアーキテクチャを5G通信に対応し得るものに変革するとともに、APIを通じて相互にデジタル連携する仕組みをお互いに整えることが重要だ。吉田氏によると「当社も通信事業者やサービスプロバイダーへの支援を数多く担当してきたが、変革自体は順調に推移しているように感じる。この流れをさらに後押ししたいと考えて創出したのが、今回の5Gショーケースだ」と説明する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 日立がローカル5G実証環境を構築、エッジコンピューティング運用技術を重視
日立製作所は、中央研究所(東京都国分寺市)内にあるイノベーション創成を加速するための研究施設「協創の森」に、エッジコンピューティング運用技術を重視するローカル5G実証環境を構築したと発表した。 - auの基地局も設置、コニカミノルタの「ハイブリッド」なローカル5Gラボ
コニカミノルタは2020年10月28日、KDDI、NECと合同で「Innovation Garden OSAKA Center」内にau 5G基地局とローカル5G開発環境を併設した「ハイブリッドの5Gオープンラボ」を開設すると発表した。開設日は同年11月6日。国内では珍しい、キャリア5Gとローカル5G両方の開発検証環境を備えた研究施設だ。 - NTT東日本がローカル5Gオープンラボをリニューアル、サブ6GHzの対応も着々
NTT東日本は、ローカル5Gの検証環境「ローカル5Gオープンラボ」をリニューアルするとともに報道陣に公開した。5G基地局のマルチベンダー化や6GHz帯以下の周波数帯(サブ6GHz)への対応の他、農業用途での屋外検証を可能にするビニールハウスや畑などの整備も進めており、共同実証パートナーをさらに幅広く募る考えだ。 - 西日本初のローカル5Gオープンラボが開設、2020年度内にSA方式の実証実験を開始
オプテージは、本社が入居するオプテージビル(大阪市中央区)の3階と21階に、ローカル5Gの周波数を用いた実験試験局でのオープンラボ「OPTAGE 5G LAB」を開設した。ローカル5Gで割り当てられた28GHz帯を用いたオープンな実験施設は西日本初だという。 - ローカル5Gが新たなバズワードに、製造業はその可能性を生かせるのか
国内で商用サービスが始まる5G。この5G以上に注目を集めているのが、通信キャリアでない事業主体でも5Gをプライベートネットワークとして利用できる「ローカル5G」だ。このローカル5Gの新市場として製造業の工場が大きく成長することが期待されている。 - プライベートLTEからローカル5Gへ、ドイツの製造業は進化を止めず
脚光を浴びるIoTだが、製造業にとってIoT活用の方向性が見いだしきれたとはいえない状況だ。本連載では、世界の先進的な事例などから「IoTと製造業の深イイ関係」を模索していく。第5回は、ドイツの製造業が期待を寄せる「プライベートLTE」と「ローカル5G」にスポットを当てる。