ローカル5Gが新たなバズワードに、製造業はその可能性を生かせるのか:MONOist 2020年展望(1/3 ページ)
国内で商用サービスが始まる5G。この5G以上に注目を集めているのが、通信キャリアでない事業主体でも5Gをプライベートネットワークとして利用できる「ローカル5G」だ。このローカル5Gの新市場として製造業の工場が大きく成長することが期待されている。
2020年は、長らく“次世代”移動体通信技術とされてきた5Gの商用サービスが国内で始まる年だ。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが2020年春のサービス開始に向けて、2019年秋からプレサービスを行っており準備は整いつつある。新たな通信キャリアとして参入する楽天モバイルも5Gの周波数が割り当てられており、同社が5Gにどのように取り組んでいくのかも注目が集まりそうだ。
とはいえ世界全体で見れば、5Gの商用サービスは既に米国、韓国、中国などで始まっており、日本でのサービス開始は取り立てて早いものではない。エリクソン(Ericsson)が2019年11月に発行したモビリティレポートによれば、世界で約50の事業者が5Gサービスを提供しており、加入契約数は1300万に達している。このうち500万は5Gサービスの立ち上げで大きく先行した韓国のものだが、2019年10月末に5Gサービスを開始した中国は事前予約が1000万を数えているとの報告もあり、今後5Gサービスの加入契約数は加速度的に伸びていくだろう。
産業ユーザーは通信キャリアの5Gインフラ整備を待っていられない
ここであらためて5Gの3つの特徴を確認しておこう。1つ目は「超高速通信」だ。最高伝送速度は10Gbpsに達し映像コンテンツの取り扱いなどが容易になる。2つ目は「超低遅延」で、従来と比べてはるかに遅延時間の短い1ms程度を実現できるとされている。そして3つ目の「多数同時接続」では、さまざまなモノがインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)時代の移動体通信技術として1km2当たり100万台の同時接続が可能とされている。
これら3つの特徴は、従来の移動体通信技術の主な用途であったスマートフォンや携帯電話にとどまらない、さまざまな産業への適用を広げるものだ。スマート工場やスマート農業、建築・建設のスマート化、自動運転車、スマート物流など、LTEまでの移動体通信技術では対応しきれなかった要求を満たす可能性がある。
しかし、通信キャリアによる5Gサービスの立ち上げは、より多くの既存ユーザーがいる都市部を中心に進むことになる。サービスの進捗率を示す「人口カバー率」を高めていく上で当然の戦略だ。一方、先述した5Gの新たな用途となる産業が活用を求める場所は、都市部よりも地方であることの方が多い。例えば、工場や農地は郊外にあるのが一般的だ。
また、これらの産業は高齢化や労働力不足などに対応すべくデジタルトランスフォーメーション(DX)によるスマート化を急ピッチで進めている。各産業がスマート化をさらに進化させていく上で5Gという新技術は早急に活用したいと考えており、通信キャリアのインフラ整備は待っていられないのが実情だ。
こういった新たな需要に対応すべく、通信キャリアにとどまらないさまざまな事業主体が柔軟に5Gを利用できるように総務省が検討を進めていたのが「ローカル5G」である。これまでも、通信キャリアではない事業主体がLTEネットワークをプライベートに利用できるようにする法制度として、地域の公共サービスの向上やデジタルディバイド(条件不利地域)の解消を目的とする地域BWA(Broadband Wireless Access)や、地域BWAを補完する形で自社の建物や土地内で限定的に利用できるようにする自営BWAがあり、2.5GHz帯の周波数が割り当てられていた。
ローカル5Gはこれら「プライベートLTE」の5G版ともいえるが、さらにより多くの事業主体が5Gを利用できるように、できるだけ規制を緩和した法制化を目指している点で従来と大きく異なる。具体的には、2018年12月に5Gの技術的要件を取りまとめる新世代モバイル通信システム委員会の下で「ローカル5G検討作業班」が設置され、ローカル5Gの実現に向けた割当方法や技術的条件などの検討が進められてきた。
2019年秋には「ローカル5G導入に関するガイドライン案」と「電波法施行規則等の一部を改正する省令案等」が提出され、その意見募集を経て同年12月17日には正式なガイドライン案が公表されている。そして総務省は12月24日に関係省令と告示を公布、施行し、ローカル5Gの無線局免許の申請の受付を開始している。
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