ダイキンのCVCは単なる投資にあらず、「ここまでやるか」というほど徹底的に:イノベーションのレシピ
ダイキン工業はコーポレートベンチャーキャピタル活動に関する説明会を開催した。自社の重点投資領域のテーマに沿う形でスタートアップなどに投資、支援を提供するとともに、その後の実績創出まで含めて伴走支援を行う仕組みを作るなど独自の特徴がある。
ダイキン工業は2023年1月19日、同社が推進するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)活動に関する説明会を開催した。自社の重点投資領域のテーマに沿う形でスタートアップなどに投資、支援を提供するとともに、その後の実績創出まで含めて伴走支援を行う仕組みを作るなど独自の特徴があるという。
世界的にも珍しい知財ポートフォリオ構築支援の取り組み
ダイキン工業は2019年11月にCVC活動を担うCVC室を、社内外とのグローバル共創活動のための部門「テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)」内に設置している。これを通じて社外企業との共創活動を推進している。2021年度時点でTICで進める460の共創テーマの内、スタートアップなどとの共創は190テーマに上るという。
ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長 兼 CVC室長の三谷太郎氏は「変化の激しい時代の中で、事業領域がますます拡大、複雑化している。その中で当社では、単純な技術獲得だけを念頭に置いた活動ではなく、課題設定から一緒に考える形のオープンイノベーションをトップダウンで実行している」と語った。
ダイキン工業はCVC活動を通じて、企業への柔軟かつ迅速な支援を目指している。このためにCVC室を設置して、さらに5年で110億円の投資枠の設定や、1人でも部門長が認可すれば出資の決裁を行える仕組みなどを整備した。
特にスタートアップとの共創活動においては、優秀な人材の力を自社の成長に結び付けられることなどを目指して活動している。スタートアップの要望を聞いてから、ダイキン工業の要望を伝えた上で、信頼関係を構築し、業績化するまで伴走する。「投資して終わり」というCVC活動に陥らないように注意を払っているという。
投資は、戦略経営計画である「FUSION25」において策定された「カーボンニュートラルへの挑戦」「顧客とつながるソリューション事業」「空気価値の創造」という3つの成長領域に加えて、将来に向けた先行技術開発やリサーチを加えた合計4領域21テーマを対象に実施する。これまでの投資事例としては、空調機器の不具合監視AI(人工知能)や運転異常の予測AIを共同開発した東京大学発スタートアップのJDSCや、メタマテリアル技術を活用した設計技術に基づく設計自動化ソフトウェアなどを展開するNature Architectsへの出資がある。
また「カーボンニュートラルへの挑戦」に沿った投資事例としては、2023年1月13日に発表した京都大学発のスタートアップAtomisへの出資が挙げられる。同社は金属有機構造体(MOF)を活用した新機能素材開発に取り組んでおり、ダイキン工業との協業を通じて、化学プラントにおける空調機から回収した冷媒の再生プロセスへの技術適用を目指す。
ダイキン工業ではスタートアップの共通課題となりがちな知財ポートフォリオ構築に当たっては、出願前調査や海外での権利取得などについてコストを負担する仕組みを作っている。これによって「3年間で50〜100件程度のスタートアップとの共同出願を目標としていたが、6カ月で30件程度の出願を行うことができた。世界全体で見ても珍しい取り組みとして注目を集めている」(三谷氏)という。
三谷氏はCVC室設立以来の取り組みを振り返って、「ユニークなスタートアップとの関係構築は進んだが、成果創出というところではまだ課題がある。共創相手のスタートアップに『ここまでやるのか』と思われるくらい、徹底的に関わっていくことが大事だと考えている」と語った。そのために、今後はスタートアップコミュニティーの活動が盛んな東京エリアでの活動を強化し、スタートアップによるダイキン工業の東京支社駐在なども開始する。
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