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CVCを通じたスタートアップ投資で得られるリターンとは何かスタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(9)(1/3 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第9回はCVCを通じたスタートアップへの投資時の留意点を解説する。

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 連載第8回の前回は、スタートアップと進めてきたオープンイノベーションが事業化段階に入る際の留意点のうち、利用契約に関する事柄をご紹介しました。

 今回は、事業会社によるCVCなどを通じたスタートアップへの投資に関して注意しておきたい点を、総論的ではありますが解説していきます。

※なお、本記事における意見は、筆者の個人的な意見であり、所属団体や関与するプロジェクトなどの意見を代表するものではないことを念のため付言します。

スタートアップから見たCVCと付き合うメリット

 出資を伴うスタートアップへの関与については、(1)(間接的な出資ではあるものの)他社のファンドにLP(Limited Partner)として出資する場合※1、(2)事業会社本体から出資する場合、(3)CVC(Corporate Venture Capital)を設立し、CVCを通じて出資する場合が考えられます※2※3。以下では、(3)を念頭に検討しますが、(2)のケースでも共通する事項は多いと思われます。

※1:スタートアップに出資したいものの、スタートアップの業界にまだ精通していない、目利きのキャピタリストに投資先を選定してほしい、などの理由から、スタートアップへの出資の第一歩としてまずはLPとして既存のVCのファンドに出資することを選択するケースも少なくない。その際には、各VCの投資先リスト(ポートフォリオ)を参照しつつ、当該VCの投資の傾向と自社がつながりを持ちたいスタートアップとの関係性(自社の事業領域と親和性が高い領域か、全く異なる領域か、その両方を含む場合か)を検討する必要があろう。

※2:スタートアップへの投資を検討する事業会社にとって参考になる書籍として、小川周哉・竹内信紀(編)『スタートアップ投資ハンドブック』(日経BP、2019年)が挙げられる。また、国内CVCの取り組みを紹介するものとして、経済産業省「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(第三版)」(リンク先PDF)も参考になる。

※3:なお、CVCについては、アンドリュー・ロマンス(著)、増島雅和・松本守祥(監訳)『CVC コーポレートベンチャーキャピタル』(ダイヤモンド社、2017年)や倉林陽『コーポレートベンチャーキャピタルの実務』(中央経済社、2017年)、KPMG FAS【編】『実践CVC 戦略策定から設立・投資評価まで』(中央経済社、2018年)などで詳細な検討がなされているため、参照されたい。

 CVCは、特に特定の親会社が存在せず、独自の資本で運営しているベンチャーキャピタル、つまり独立系VCとは幾つもの点で大きな違いがあります。CVCであることの強みを生かして、スタートアップにとってのCVCと付き合うメリットを意識し、アライアンスを成功に導く必要があります。

(1)自社の事業を生かしてスタートアップの成長を大きくサポートできる

 CVCの場合、母体となる事業会社が出資先スタートアップの顧客になることで、大きな取引実績と売り上げを提供し、同社の企業価値を向上させることが期待できます。また、自社の営業力や製造量産などのノウハウを提供するなどして、スタートアップにとって不足しているピースを埋め、スタートアップ単独ではなし得なかった成長をサポートすることもできます。母体となる事業会社が培ってきた社外におけるビジネス上のネットワークも、スタートアップにとって非常に価値の高いものになる可能性を秘めています。

(2)M&Aの前段階として

 CVCの出資後、母体である事業会社が出資先スタートアップのM&Aを行う場合があります。CVCによる出資やその後の付き合いが、M&Aに向けてのスタートアップとのパイプラインづくりやプレデューデリジェンス(事前の現状分析)となる場合もあります。

(3)戦略的リターン

投資によって財務的リターンの獲得と戦略的リターン(例えば事業シナジー)の獲得が考えられます。財務的リターンはおろそかにすべきではありません。ただ、出資への直接的な金銭的なリターンがなくとも、戦略的リターンの創出があればCVCは成功したといえる場合もあります。

国内では戦略的リターン目的のCVCが多い

 事業会社がCVCを設立する場合、その目的は大きく分けて、財務的リターンの獲得と戦略的リターン(例えば事業シナジー)の獲得の2つに分けられます。前者は投資先のスタートアップがEXITによる金銭的なリターンを獲得することが目的となります。他方、後者はスタートアップへの投資を通じて、事業シナジーの実現によって事業会社自身の戦略を達成することが主な目的です。

 日本ベンチャーキャピタル協会の調査※4によれば、日本のCVCの目的は、戦略的リターンの獲得が51%、財務的/戦略的リターンの両方を目的とする場合が39%、財務的リターンが10%となっています。欧米のCVCと比較すると、戦略的シナジーの獲得を重視する場合が多いのが特徴のようです。

※4:「我が国のコーポレートベンチャリング・ディベロップメントに関する調査研究 〜CVC・スタートアップ M&A 活動実態調査ならびに国際比較〜」(6頁)」

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