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CVCを通じたスタートアップ投資で得られるリターンとは何かスタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(9)(2/3 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第9回はCVCを通じたスタートアップへの投資時の留意点を解説する。

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財務的/戦略的リターンを目指す場合の留意点

 CVCの目的に応じて、スタートアップへの関与の仕方や留意点は、異なったものになります。目的の明確化自体は、CVCとしての成果測定やCVCに携わるメンバーの動機付けの観点からも重要といえるでしょう。以下、それぞれの目的における留意点について検討します。

(1)共通した留意点

 CVCが特に事業領域のスタートアップに出資する場合、通常のVCと比較すると、技術や設備、販路など自社のリソースを活用した効果的な支援策を展開し得るという点がメリットになります 。スタートアップはさまざまな面でリソースが足りないため、スタートアップが望んでいるリソースをCVCが母体となる事業会社などを通じて提供できれば、スタートアップの成功可能性は高まり、結果として財務的リターンを得られる可能性を高めることができます。もっとも、自社のリソースとスタートアップが望むものがマッチするかはよく確認する必要があるでしょう。

 留意点としては、早期のフェーズで多くの出資をすると、出資先スタートアップに色が付き、自社の競合先やその関係会社から出資や、アライアンスの提案を避けられてしまう可能性があります。その後のシリーズで投資家を募る際の足かせになりかねないという点が挙げられます。

 例えばKDDIは、スタートアップへのマイノリティー出資を、「KOIF(KDDI Open Innovation Fund)」を通じて行っています。あえてリードインベスターにならず、マイノリティー出資をメインとしているのは、出資先のスタートアップに早いフェーズから色が付くことを回避するためだと推測できるでしょう※5

※5:実際には、持分法の問題から、出資比率を20%未満に抑える場合が多い。

(2)財務的リターンの獲得の場合

 財務的リターンを求めてCVCが出資する場合、初期フェーズである程度の出資を行う必要性も高いでしょう。その場合、先述の早期フェーズでの出資に伴うデメリットに気を付けるべきです。そのため、財務的リターンの獲得を目的として、早期段階で多額の出資を行う場合には、長期的に自社で率先して出資していく覚悟をしておく必要があるでしょう。

 また、自社と競合する領域のスタートアップに出資する場合は、自社の事業と食い合う可能性も否定できません。従って、関与の仕方次第では、当該スタートアップの成長=自社の利益減となりかねません。総合的に見て自社とスタートアップがWin-Winになる形としてどういった関与の仕方があり得るか、よく検討しておく必要があります。

 なお海外では、財務的リターンを出していないCVCは悪評が立ち、良いスタートアップを紹介してもらえない例もあります。他方、財務的リターンも出せるCVCであれば、自社にとって好ましい取り組みが行えるベンチャーとつながりやすくなるのはもちろんのこと、「当該CVCが資金を入れているなら大丈夫だ」などとCVC自体のブランド力が高まり、良質な投資家が更に集まってきやすくなるというメリットもあります。

(3)戦略的リターンの獲得の場合

 戦略的リターンの獲得を目指す場合、その後のM&Aの前段階として行われる場合や、スタートアップとの関係構築や対象マーケットの理解のために行われる場合があります。

 先ほど、KDDIのKOIFに触れましたが、KDDIがこれまで買収してきた約10社程度のスタートアップのうち、4社はKOIF出資企業です。一方で、脚光を浴びた2017年のソラコムの買収については、KOIFによる出資をしていませんでした。CVCが出資することによるメリットもデメリットもあることを踏まえれば、買収前に出資すべきか否かは、ケースバイケースといえるでしょう。

 ソニーのCVCにおける出資方針も、「我が国のコーポレートベンチャリング・ディベロップメントに関する調査研究 〜CVC・スタートアップ M&A 活動実態調査ならびに国際比較〜」(リンク先PDF)からの引用で紹介しておきたいと思います。

「投資対象となる企業は、『ソニーの事業の周辺にあって、社員が評価できる、よい会社』。『周辺の事業』であるから、すぐにソニー本体の事業とシナジーを生むものではなく、基本的M&Aを前提とした投資は行っていない。あくまでも『どんどん成長するスタートアップとの関係を築いていく』(土川氏)のが目的だ。ただし、関係を深めていくなかで、その業界のこともよく理解できるようになるので、事業フェーズが進展してきた時点でM&Aを検討することも選択肢の一つとなる。また、ベンチャー投資を通じて対象マーケットを理解していれば、関連領域でのM&Aのデューデリジェンスにその知識を役立てる事もできる」

(引用元「我が国のコーポレートベンチャリング・ディベロップメントに関する調査研究 〜CVC・スタートアップ M&A 活動実態調査ならびに国際比較〜」、62頁)

 なお、戦略的リターンの獲得を目的とする場合、スタートアップに急いで上場や他社へのM&Aをさせる必要は必ずしもなく、出資を受けるスタートアップとしては、以下のメリット・デメリットに留意する必要があります。

(1)メリット

スタートアップとしては、より長期的な戦略を構築することができるため、戦略的リターンを主たる目的とする投資の場合、プロダクト/サービスのローンチまで時間がかかるモデルや、市場の形成や拡大に時間を要するモデルのスタートアップと相性が良いように思われます。

(2)デメリット

独立系VCを筆頭とする、株式売却による財務的リターンを投資の目的とする投資家と共に出資を受ける場合、これらの投資家とCVCとの間で意見の対立が生じるおそれがあります。

 また、スタートアップの成長ステージに応じて、CVCが戦略的リターンとして求めるものが変化することもあります。例えば、以下のとおりです※6。CVCと付き合うスタートアップとしても、以下の点を踏まえ、自社に望まれているものを踏まえ、CVC(または事業会社)とWin-Winの関係で付き合っていけるのかをよく検討することが重要です。

※6:KPMG FAS【編】『実践CVC 戦略策定から設立・投資評価まで』(中央経済社、2018年)38〜40頁。

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