3Dコラボレーションやデジタルツインを加速する「Omniverse」とは:セミナーレポート(3/3 ページ)
デル・テクノロジーズ主催セミナー「Workstation Masterclass - デジタルツインはこう攻めろ、最新ソリューションを知る」の講演内容から一部を抜粋し、「NVIDIA Omniverse」の概要や活用事例などを紹介する。
Omniverseを用いたCADデータのDR/デジタルツインへの応用
続いて登壇したCTC 鈴置氏は、冒頭、製造業におけるデジタルツイン、産業用メタバースといったトピックスに注目が集まる背景として、CPU、GPUの性能向上によってよりリアルで大規模な空間構築が可能になったこと、仮想空間上でデザインレビューやシミュレーションが行える技術が登場したこと、AI処理の学習環境としての仮想空間の活用が進みつつあることを挙げ、「総じて、製造業における次世代のイノベーション創出にはデジタルツイン、メタバースに代表されるバーチャルワールド(仮想世界)の活用が不可欠なものになってきているのではないか」(鈴置氏)と訴える。
そして、デジタルツインを実現するには、物理的に正確な仮想空間の構築、現実に即した光源/色/質感/空気感の再現、現実と見分けがつかない環境でのシミュレーションが不可欠だとし、これらを満たすことができる環境を構築することが重要だという。また、デジタルツイン環境を構築する上では、仮想空間に取り込まれる設備などの3Dデータ、実空間の点群データ/CADデータ、BIMデータなど、さまざまなデータが必要になると同時に、異なるデータフォーマットが混在するという問題を解決する必要がある。「いざ、デジタルツインを始めようとしても、こういった壁に直面して、最初の一歩を踏み出せないでいる企業は少なくない」(鈴置氏)。
そこでCTCでは、Omniverseを用いたデジタルツイン環境の構築を推奨する。鈴置氏は「Omniverseであれば、さまざまなデータを取り込め、既存のソフトウェア資産などの利用価値を高め、異なる3Dソフトウェアなどを接続してリアルタイムでの共同編集や評価が行える。また、RTXテクノロジーによるフォトリアリスティックな表現やリアルタイムでの空間シミュレーションの実現、さらに『NVIDIA PhysX』による物理シミュレーションが可能な他、光や空間条件を仮想空間で再現することも可能だ」と述べ、Omniverseがもたらすデータ活用のしやすさ、データの接続性、空間の再現性、空間を活用した学習のしやすさをメリットとして挙げる。
こうしたOmniverseの強みにより、リアルタイムの3Dコラボレーションワークフローを実現し、手戻りが少なく、時間ロスのない設計が可能になるという。また、忠実度の高いコンセプトデザインレビューの実現により、レビューサイクルの短縮化や開発リードタイムの短縮が図れる。さらに、製造前の検証やデザインレビューにおいて、物理的に正確なビジュアライゼーションによるオンラインユーザーテストの実施なども可能になる他、Omniverse上に取り込んださまざまなデータを、USD形式の“シングルソース”として管理できるため、イテレーションのムダの削減にも効果を発揮するという。
例えば、Omniverseで工場のデジタルツインを構築する場合、工場内で動作するAMRなどのロボット、作業員を模したデジタルヒューマン、工場の設備/建屋などのデータを全て取り込み、仮想空間上に工場のデジタルツインを構築できる。また、Omniverseは物理演算エンジン(PhysX)を備えているため、工場内のさまざまな物理現象をシミュレーションすることが可能だ
シミュレーション分野への応用としては、AIを活用したトレーニングやシミュレーションが可能で、実際のロボットの動きをOmniverse内で再現したり、さまざまな状況や環境を疑似的に作り出して動作検証を行ったりできる。さらに、仮想空間内で行ったバーチャルな検証結果を学習データとしてフィードバックするといった利用も可能である。
また、Omniverseを用いたデジタルツインのスモールスタートのイメージとして、CADデータをOmniverseに取り込むとどのようなことができるのかについても紹介した。Omniverseには「CADコンバーター」という機能が備わっており、「SOLIDWORKS」や「NX」といった業界標準のCADデータをそのままインポートしてOmniverseの仮想空間上に取り込むことができる。取り込まれたCADデータは、Omniverse上で高精度に再現され、形状や複雑さを損なうことはないという。
講演では、SOLIDWORKSのサンプルデータ(工作機械の3Dモデル)をOmniverseに取り込んだイメージを紹介。「トップアセンブリを指定することにより全てのデータを読み込むことが可能で、大きなモデルでもメッシュの解像度を落とすことなくモデルを高精度に忠実に再現できる」(鈴置氏)という。また、取り込んだモデルに対して、Omniverseで提供されている豊富な質感データを適用することが可能で、リアルタイムレイトレーシングによってフォトリアルな画像をリアルタイムに確認することができる。
さらに、工作機械の3Dモデルに加え、工場データをOmniverseに取り込むことで、工作機械の3Dモデルが工場内でどのように配置されるのかをデジタルツイン環境で確認し、リアルタイムに動かしながら、レイアウトの検証などが行える。「デジタルツイン環境を構築するに当たって、まずはこのようなスモールスタートからOmniverseでできることを実感してもらい、さらに追加でやってみたいことを取り込みながら膨らませていくのがよいのではないか」(鈴置氏)。
現在、CTCではOmniverseによるデジタルツイン環境の構築をより簡単に行えるよう「Omniverse Starterパッケージ」を用意しており、「Omniverseを使ってみたい/自社データを取り込んで何ができるか試したい」「試したいけどOmniverseの利用環境がない/GPU搭載マシンを用意できない」「Omniverseの活用を一緒に考えてほしい/有効か活用を検討したい」といった要望に応えているという。
ユーザー企業側は、Omniverseに取り込みたい3Dモデルを用意するだけでよく、肝心のデータ活用や運用の方向性についてはCTCがサポートしてくれる。Omniverse Starterパッケージには、Omniverse Enterpriseのライセンスとデル製のワークステーション(目的に応じて選択)、CTCの導入/活用支援サービスがセットになっており、テーマ設定、製品導入、操作教育、運用支援(別途オプション)までをオールインワンで提供するとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- NVIDIAが「Omniverse」の国内普及を加速、DRからCAE、デジタルツインへ
NVIDIAはメディア向けブリーフィングを開催し、「GTC November 2021」において一般向け販売の開始が発表された「NVIDIA Omniverse Enterprise」の国内導入を支援する団体「NVIDIA Omniverse Partner Council Japan」を結成したことを発表した。 - 仮想空間でのコラボレーションを可能にするプラットフォームをアップデート
NVIDIAは「NVIDIA Omniverse Enterprise」のメジャーアップデートをリリースした。機能強化に加え、パフォーマンスと使いやすさが向上しており、種類の異なる3Dアプリケーション間での接続が可能なOmniverse Connectorsも提供する。 - NVIDIAがOmniverse向けの新しい開発者フレームワークやツールなどを発表
NVIDIAは、マルチGPUスケーラブルコンピューティングプラットフォーム「NVIDIA Omniverse」向けに、新しい開発者フレームワーク、ツール、アプリケーション、プラグインを発表した。 - SiemensとNVIDIAが産業向けメタバース構築で提携、XceleratorとOmniverseを接続
SiemensとNVIDIAは産業向けメタバースの構築に向けて提携を発表した。第1弾の取り組みとして、Siemensのオープンなデジタルビジネスプラットフォーム「Xcelerator」と、NVIDIAの3Dデザイン/コラボレーション向けプラットフォーム「Omniverse」を接続し、Siemensの物理ベースのデジタルモデルとNVIDIAのAI対応リアルタイムシミュレーションによる、産業向けメタバースの構築を可能にする。 - デザイナー同士のバーチャルコラボレーションを支援するクラウドサービス
NVIDIAは、デザイナーやクリエイターをバーチャルにつなぐことができるサービス「Omniverse Cloud」を発表した。ユーザーはどこからでも大規模な3Dシーンにアクセスして、複数人が同じ空間にいるかのように共同作業ができる。 - NVIDIAがOmniverseを強化、デジタルツイン用システムやクラウドサービス発表
NVIDIAは、オンライン開催のユーザーイベント「GTC 2022」の基調講演において、3Dデザインコラボレーション/リアルタイムシミュレーション基盤である「NVIDIA Omniverse」に関するいくつかの新しい発表を行った。