低周波の磁気ノイズを抑えるパーマロイ箔を発売、EVの軽量化に貢献:材料技術
大同特殊鋼は、「EMCノイズ」の抑制効果を持つパーマロイ箔「STARPAS」シリーズに、約100kHz以下の低周波で優れた特性を誇る「STARPAS-50PC2S」を追加した。
大同特殊鋼は2023年1月18日、通信技術やIoT(モノのインターネット)機器の高周波化、自動車の電動化に伴い発生する「EMCノイズ※1(主に磁気ノイズ)」の抑制効果を持つパーマロイ箔※2「STARPAS」シリーズに、約100kHz以下の低周波で優れた特性を誇る「STARPAS-50PC2S」を追加し、同年1月に販売を開始したことを発表した。
※1 EMCノイズ:電気機器などで交流の電流から発生する電磁波で、その発生が意図されていないもの。
※2 パーマロイ箔:軟磁性材(磁石にくっつく材料であり、磁石の磁場を取り除くと磁気がなくなる)の1種で、その中で透磁率が最も高い鉄ニッケル系の合金。
STARPASは、高透磁率材「MEN PC-2S」を備え、弱いノイズを高感度に抑えられる「PC2S」シリーズと、高飽和磁束密度材「5DF42N」を使用し強磁界ノイズに対応した「DF42N」シリーズで構成される。いずれも30μm厚以下のシールド材で、主にMHz帯をはじめとする中周波帯で生じるノイズを抑制する効果がある。
STARPAS-50PC2Sは、PC2Sシリーズの1つで、厚みを50μmとし熱処理を工夫することで、低周波向けのシールド性を高めた。曲げや打ち抜きなどの加工性にも優れている他、従来材と重ねることで、ラミネートなどによる積層にも対応している。加えて、機器への貼り付けが容易なパーマロイが使用されており、低周波向けの最適なシールド設計を実現しているだけでなく、STARPASのシート厚のバリエーションを増やすことで、多様化するEMC対策の設計部材を提供することに対応し、ノイズの特徴に応じた最適なシールド設計で、EV(電気自動車)や自動運転技術で使用される機器の軽量化や薄型化に貢献する。
同社は車載用機器のEMC試験「ISO11452-8」による磁界イミュニティ試験をSTARPAS-50PC2Sで行った。試験では材料に対して垂直に磁界を印加する最も厳しいシールドの配置方法で検証した。その結果、STARPAS-50PC2Sは、磁界強度が低い試験レベル1では、従来の高感度シリーズ(30PC2S)よりもシールド性が高く、磁界強度が高い試験レベル4でも、従来の強磁界シリーズ(30DF42N)より優れた性能を示した。
近年、自動車の電動化や自動運転技術などの進化により、EMCノイズへの対策が重要となっている。EMCノイズは、電子機器の正常な動作の妨げとなり、場合によっては機能の停止や誤動作の原因となる。そして、その周波数帯に応じた対策材料がある。一般的に、低周波のEMCノイズに対してシールド効果を得るためには一定の厚みの材料を使用する。
しかし、過剰なシールドとなり機器の軽量化の妨げになる場合がある他、製品への貼り付け時に曲げや打ち抜きといった加工によりナノ結晶などで性能が低下するケ−スもある。解決策として、低周波向けで軽量化が行え加工性に優れたシールド材が求められている。
さらに、自動車メーカーでは、車両に使用する材料を、金属材料から炭素繊維複合材料などに置き換えて軽量化を進めているため、ノイズの強度に対して最適な厚みのシールド材を選択するEMC対策を必要としている。そこで、大同特殊鋼はSTARPAS-50PC2Sを開発した。
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