エネルギー生産性向上でモノづくり現場に貢献、オムロンがEP100に加盟した狙いとは:FAインタビュー(2/2 ページ)
製造業においても大きな課題となってきているカーボンニュートラル。その中で、オムロンは2022年11月8日、エネルギー効率に関する国際イニシアチブ「EP100」への加盟を発表した。なぜEP100の加盟に至り、その先をどのように見据えているのか、オムロン 執行役員常務 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー社長の辻永順太氏に話を聞いた。
EP100加盟を機に欧米へのソリューション提案を加速
MONOist エネルギー生産性の倍増はどのように進めていきますか
辻永氏 綾部工場でのノウハウを制御機器事業の他工場に展開する。また今後、導入される新しいラインや設備に関しても、i-Automationのソリューションによって生産性をより高めていく。蛍光灯をLEDに交換するなど設備投資も一層進めていく。自社だけでなく世界の製造業に貢献できるノウハウが蓄積できており、これらのソリューションを提供していきたい。導入する側としても、自社の工場でも実践されていないソリューションの提案はなかなか受け入れられにくいのではないか。
MONOist どのような領域への提案を考えていますか
辻永氏 SF2030で制御機器事業の注力事業として捉えているデジタル、環境モビリティ、食品&日用品、医療、物流の5つの領域への提案を強めていきたい。
例えば、われわれの「i-BELT」はデータを活用したサービスだ。現場のデータを価値のあるデータに変え、それを分析、解析することで新たな制御アルゴリズムに転換し、生産現場で最適な制御を実現する。
エネルギーに関して言えば、電力の使用状況を見える化からスタートする。例えば、前工程が機械の故障で止まっているのに、後工程が待機電力を消費しているケースもある。そういった装置ごとや前後工程の関連を可視化し、解析して制御によって最適化する。
見える化だけで終わってしまうと、後の改善は現場任せになってしまう。自動でフィードバックし、制御まで持っていくことが重要だ。だからこそわれわれがやる意味がある。
経営陣が生産現場にエネルギー使用量の削減を命じても、生産現場は品質を担保しないといけないし、生産量も落とすわけにいかない。現場の労働環境も下げられない。これらの両立に難しさがある。エネルギー削減に投資しても、生産量が上がらなければ投資回収できない。そういった悩みは多く聞く。そこは話し合いを重ねて、最適な提案をお出しする。
MONOist 今後の展望を教えてください
辻永氏 欧州中心に企業への評価の軸は変わってきている。今回のEP100加盟によって、環境への取り組みに感度の高い欧米企業に、われわれが持つソリューションの提案を加速していきたい。エネルギー生産性向上のソリューションの提案は以前から行ってきているが、250個ほどのアプリケーションを用意している中で、その1つとしての位置付けだった。
これからはEP100というバックボーンを持っての提案になり、われわれを見る目も変わってくる。既に日本では一定の手応えは得ており、それを基に欧米企業へも展開していきたい。特に環境モビリティに関しては、EVの製造工程のエネルギー生産性も重要視されるだろう。
SF2030で宣言しているように、「オートメーションで人、産業、地球の豊かな未来を創造する」ことがわれわれの最大のミッションだ。人に依存している工程を自動化して人がより創造的な分野に従事する現場の革新、人と機械のより高度なレベルの協働、モノづくり現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速という、われわれが目指していくモノづくり現場のオートメーション化の1つにエネルギー生産性向上の取り組みがある。
そうすることで、日本だけではなく世界の製造業がよりエネルギーを効率的に使い、より良い製品を作れる生産現場になると考えている。
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