止まらないラインで不良をゼロに、M&Aで価値強化進めるオムロンが実現したいこと:FAインタビュー(1/2 ページ)
オムロンは2022年10月18日にキリンビールの子会社である飲料検査機大手のキリンテクノシステム(KTS)への出資を発表。飲料製造における検査領域を強化するとともに、製造ラインにおいて不良品を作らない「ゼロディフェクト」などの新たな価値実現を推進していく方針を示した。KTS出資への経緯やオムロンの制御機器事業として期待する将来像などについて、オムロン 執行役員常務 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー社長の辻永順太氏に話を聞いた。
オムロンは2022年10月18日にキリンビールの子会社である飲料検査機大手のキリンテクノシステム(KTS)への出資を発表。飲料製造における検査領域を強化するとともに、製造ラインにおいて不良品を作らない「ゼロディフェクト」などの新たな価値実現を推進していく方針を示した。KTS出資への狙いやオムロンの制御機器事業として実現したい将来像などについて、オムロン 執行役員常務 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー社長の辻永順太氏に話を聞いた。
KTSへの出資がなぜ必要だったのか
MONOist あらためてKTSへの出資の狙いについて教えてください。協業ではなく、資本を投入してまで強固な関係を求めたのはなぜでしょうか。
辻永氏 制御機器事業として、飲料業界向けの展開を強化したいという狙いがある点がまず前提としてある。そして、その中で価値として、検査データのリアルタイムフィードバックにより不良品を作らない「ゼロディフェクト」、突発停止を未然に防ぐ「ラインイベントゼロ」、検査機の個体データを完全管理する「高度品質トレーサビリティー」を実現したいと考えている。これらの実現に向けて検査機のデータが大きな役割を果たす。
その上で、出資に至った1つ目の理由は、両社にとってWin-Winの関係を築くためだ。通常の協業では、それぞれの得られるメリットは限定的なものになってしまう。KTS側でもオムロンの持つグローバルの販路などを生かして、検査機のグローバル展開を期待するような声もあったと聞いている。より両社にとってメリットを生み出すためには、ある程度広い範囲で強固な連携が行える体制を作る必要があった。
もう1つの理由が、ゼロディフェクトやラインイベントゼロなどシビアな制御が必要なアプリケーションを形にすることを考えると、技術情報の開示を深い領域まで行わないと難しいという点だ。KTSの検査機ではさまざまな検査データを記録するが、そのデータが製造ライン全体で見たときにどういう意味があるかの判断を下すことはできない。それを実現するためには、前後の製造工程での緊密な情報連携が必要だ。しかし、飲料のように高速、高精度で稼働する製造ラインで、前後の製造ラインを連携させ、価値を本格的に作るのは、表面的な情報開示レベルの連携では難しい。機器の内部情報まで含めて技術開示を行うことが必要になる。そのため、出資を決めた。
国内でのソリューション展開と、海外での検査機普及で成長
MONOist 具体的に今後、どのような形でビジネスとして成長させていく考えですか。
辻永氏 現在のステータスは、出資についての発表を行った段階で、これから各国の競争法などの手続きを終えてから連携の動きは進めていくことになる。それぞれの情報も開示はしていないため、具体的な話はまだ何もできない。国や地域によって認可の時期もバラバラで、今後のスケジュールについてもはっきりしたことは話せる状況にはないが、できる限り早く進めたいと考えている。
ただ、その中でも、当面のビジネスの方向性としては、主に2つの方向性があると考えている。1つは、KTSの検査機が多く導入されている国内において、ゼロディフェクト、ラインイベントゼロ、高度品質トレーサビリティーなど、オムロンの制御との連携で実現できるソリューションを展開していく。
オムロンでも飲料業界向けで多くの制御機器を導入しており、さらに、現場データ活用サービス「i-BELT」などを活用いただいているケースもある。まだKTSの顧客情報も分からないため、具体的にどういうことができるのかは示せないが、KTSの検査機が導入された飲料製造ラインにおいて、オムロンの制御を組み合わせることでできる価値を提案していく。逆にオムロンの制御機器が導入された製造ラインで、KTSの持つ検査機や検査関連技術が生かせるような領域の開拓を進めていく。
もう1つが、海外におけるKTSの検査機の展開だ。KTSは国内向けでは多くの導入実績を持っているが、海外はまだこれからの状況だ。オムロンのグローバルの販路を通じて、KTSの検査機の海外展開を積極的に進めていく。飲料業界でも、企業としての収益性や生産性向上が求められているのは世界共通だ。海外でも人件費高騰の問題などから省人化へのニーズは強くある。また、品質向上へのニーズも強まっており、品質に強みを持つ日本で受け入れられたKTSの技術力が評価を受けると考えている。アジア地域やアフリカ地域では新規設備投資もまだ旺盛で、新たな検査機導入の機会も多い。そこに、KTSの検査機を提案していく。
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