RapidusとIBMが2nm半導体の量産へ協力、日本の半導体産業に期待寄せる:製造マネジメントニュース
IBMとRapidus(ラピダス)は2022年12月13日、東京都内で会見を開き、半導体の微細化技術の発展に向けた共同開発パートナーシップを締結したと発表した。
IBMとRapidus(ラピダス)は2022年12月13日、東京都内で会見を開き、半導体の微細化技術の発展に向けた共同開発パートナーシップを締結したと発表した。
このパートナーシップの一環で、IBMの2nmプロセス半導体の技術開発を推進するとともに、Rapidusの国内製造拠点に2nmプロセスの製造技術を導入する。IBMは2021年に2nmのチップ技術を発表しており、7nmチップに比べて45%の性能向上もしくは75%のエネルギー効率向上を見込んでいる。Rapidusは2020年代後半に2nmプロセス半導体の量産を開始する予定で、「業界標準品」との互換性も持たせる。
米国IBMと日本IBM、Rapidusの経営陣。左から、Rapidus 取締役会長の東哲郎氏、同社 代表取締役社長の小池淳義氏、米国IBM シニア・バイス・プレジデント IBM Research ディレクターのダリオ・ギル氏、日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏、同社 常務執行役員 最高技術責任者 兼 研究開発担当の森本典繁氏[クリックで拡大]
さらに、パートナーシップの一環で、Rapidusの研究者と技術者は米国ニューヨーク州アルバニーにあるAlbany NanoTech Complexにおいて、IBMや日本IBMの研究者から「ナノテクノロジーを習得する」(Rapidus 代表取締役社長の小池淳義氏)。Albany NanoTech Complexには、Applied Materials、サムスン電子、東京エレクトロン、SCREEN、JSR、ニューヨーク州立大学などが参加している。
Albany NanoTech Complexでは、トランジスタの構造、前工程や後工程のプロセス、パッケージング技術などの研究を行う。また、施設内にクリーンルームも持ち、実験的な生産やデータ収集、プロセスの検討なども行うことができるという。量産にも導入可能な技術を一貫して開発することが可能だとしている。
IBMに学ぶ
経済産業省は半導体産業やデジタル産業を国家戦略として推進する「半導体・デジタル産業戦略」を取りまとめた。これを具体的に推進する組織として、次世代半導体の研究開発に関しては「Leading-edge Semiconductor Technology Center(LSTC)」が2022年7月に発足。Rapidusはその次世代半導体の量産を目指してキオクシアやソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTT、三菱UFJ銀行からの賛同と出資を得て2022年8月に設立された。
Rapidusは8社から73億円の出資を受けるとともに、政府の「ポスト5G基金事業における次世代半導体の研究開発プロジェクト」から700億円が補助されている。まずは海外の企業や研究機関とも連携しながら2nm世代のロジック半導体の技術開発を行い、国内短TAT(Turn Around Time)パイロットラインの構築と、テストチップによる実証を進めていく計画だ。
IBMとの協業は経済産業省も承認済み。2022年12月にはベルギーの半導体研究機関であるimecと長期的かつ持続的な協力関係の構築に向けたMOC(協力覚書)も締結し、EUV(極端紫外光)露光技術などの情報共有や共同研究を行う。国内外の協力や産官学の連携を生かし、次世代半導体の研究開発から生産まで日本で行う体制を構築する。また、「人材育成」「次世代半導体を搭載する最終的なプロダクトを意識した技術開発」「データ処理と省エネルギーの両立」の3つを重視している。
Rapidusの小池氏は「IBMからライセンスを受けながらナノテクノロジーを勉強する。IBMが持つナノシート技術で、半導体は大きく構造が変わるのでキャッチアップする。IBMでできていることを1日も早く習得すること、そして量産につなげることを目指す。IBMとともに研究に取り組み、日本のモノづくりにしていき、モノづくり面でIBMにフィードバックしたいと考えている。学んだ要素技術をパイロットラインに蓄積し、2020年代後半に向けて工場をつくる。パイロットラインには数兆円の投資が必要になる。難しい技術や資金など試練はいろいろあるが、重要なのはお互いの信頼だ」とコメントした。
半導体サプライチェーンのレジリエンス向上へ
IBMは、日本で次世代半導体を生産することがサプライチェーンのレジリエンス向上につながると期待を寄せている。現在、米国や欧州、日本では先進的な半導体の生産が行われていない。生産能力のバランスがグローバルで調整され、分散した生産体制となることが、地政学的リスクの面でも重要だと見込んでいる。
また、IBMは半導体製造装置や材料など日本の強みにも期待を示した。「このプロジェクトが簡単なものではないことは認識している。過去20年間に起こった半導体の生産能力の低下は、回復するのに時間がかかるだろう。しかし、このプロジェクトは日本にとっても世界にとっても重要な取り組みであり、われわれは支持している」(IBM シニアバイスプレジデントのダリオ・ギル氏)。
Rapidus 取締役会長の東哲郎氏は「IBMは日本に不足している最先端の半導体技術を持つだけでなく、日本を信頼してくれているという点でも重要だ。こうした信頼が未来を形成していく上で重要である。RapidusのチームがIBMと一緒になって未来を築いていくと確信している。経済産業省、政府、海外の研究機関、サプライヤーなどさまざまなサポートを得ている」とコメントした。
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