インラインでシート検査の精度と生産性を改善、オムロンがAI分類と多波長検査で:製造現場向けAI技術(2/2 ページ)
オムロンは「第13回フィルムテック ジャパン(高機能フィルム展)」(2022年12月7〜9日、幕張メッセ)において、シート検査における生産性を改善する新技術として、多波長検査技術「マルチウェーブセンシング」と、AI分類技術「Dual Class AI」を紹介した。
分類を強化するDual Class AI
このマルチウェーブセンシングに加え、「分類」を強化する技術が2022年12月1日にリリースしたDual Class AIである。欠陥の濃さや色、形状、波形などの特徴を数値化した特徴量分類とAI分類を組み合わせることで、検査業務に最適な形で分類を高度化できる。全ての分類にAIを用いるのではなく、特徴量によるパターン分類で判別できないものに対してAIを用いる使い方を想定する。AIについても「良品」「不良品」の判定のように範囲の広いものではなく、「傷の検出」や「虫の検出」など、適用範囲を絞った個別AIモデルを構築するため、従来のAI分類の課題である「基準が説明できない問題」や「基準の調整が困難である点」などを解決できることが特徴だ。
入江氏は「製造現場でのAI活用は、試験導入は行われていてもなかなか現場の業務にはまらず定着していないケースも多い。われわれは検査機メーカーとしての現場の運用性を含めつつAIの活用によって効果が生み出せる領域を絞り込んで開発を行った」と語っている。
一般的な自動検査工程では、不良品の見逃しを抑えるために、検査基準を厳しく設定し、きわどいものはいったん全て除外し、その後、人手による目視検査を行って、問題ないものについてはラインに戻す運用を行っている。この「実際に問題がないのにはじかれるもの」を、検査精度を高めることで減らすことができるため、廃棄品の削減にもつながる他、目視検査の人員削減が可能になる。
「自社内だが、従来は高品質グレードのものを汎用品グレードと分類したり、汎用品グレードのものを廃棄品品質と誤分類したりするケースがあったのを、新技術を用いることで正しい分類ができるようになり、歩留まりが30%向上したケースもある。また、目視検査の工数についても90%の削減につながったケースがある」と入江氏は成果について述べている。
今後は、これらの効率化に加え、検査結果が高度に分類できる利点を生かし、関係する工程の改善などにもつなげていく考えだ。「傷の発生具合などから、欠陥情報と発生工程をひも付けることができるようになる。工程改善を行うことで欠陥発生を未然に防止することができる」(入江氏)。
特徴量分類とAI分類は、同じ画像で学習させることが可能だ。まず、実際のラインで生まれた欠陥画像を、欠陥種別ごとに人手で分類し登録する。画像の必要枚数は「求める精度にもよるがまずは100枚程度である程度の精度は発揮できる」(入江氏)。特徴量分類は、これらの登録が終わった後、検査基準のロジックを設定し、過去結果画像を活用したシミュレーションにより精度を確認して運用を行うという流れとなる。この特徴量分類だけでは精度が確保できない場合にAI分類を活用する。AI分類についてはこの特徴量分類で活用した登録済みデータを活用して学習し、モデルを構築する。価格については「さまざまな規模があり一概にはいえないが、検査装置は別で、Dual Class AIとして100万円〜数百万円くらいを想定している」(入江氏)としている。
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