進む製造機械の「知能化」、学習済みAIを搭載する動きが拡大へ:MONOist 2022年展望(1/2 ページ)
AI(人工知能)の活用が広がりを見せている。こうした中で、新たな動きとして定着が進んでいるのが、工作機械や射出成形機など、製造機械へのAI機能の組み込みである。2022年はこうした動きがさらに加速し、AIの学習までを機械メーカーが担って出荷する動きが進む見込みだ。
AI(人工知能)の活用が広がりを見せている。一時期の行き過ぎたブームが落ち着きを見せてきたことから、強みや弱みを見極めた上で、使用されるケースが増えてきている。こうした中で、新たな動きとして定着が進んでいるのが、工作機械や射出成形機など、製造機械へのAI機能の組み込みである。2022年はこうした動きがさらに加速し、AIの学習までを機械メーカーが担い、機械の機能を拡張する動きが進む見込みだ。
AI活用は期待が大きいが現場で学習モデルを作る負担大
製造現場でのAI活用は「人の判断」の部分を一部で代替できるということで、さまざまな期待を集めてきたが、従来はなかなかうまくいかないケースも多かった。その1つの要因が、製造現場における「学習」の負担だ。
AI技術の最近の進化は、深層学習(ディープラーニング)を中心とした機械学習技術に支えられている。これらは、基本的にはコンピュータがデータを学習することで、明確な条件を定めなくてもAIが自動で最適な判断を行うモデルを構築できる。ただ、正しい結果を生み出せるようにするには「学習」が何よりも重要になる。
ただ、製造現場側(ユーザー側)でこれらの学習を行うのは大きな負担となる。製造現場にはAIの専門家はいないケースが多い他、必要なデータを集めるのが簡単ではないからだ。
例えば、よくあるのが、不良品をAIで見つけ出す品質検査に関する仕組みにおいて「不良品のデータが少ない」というケースだ。もともと不良を出さないことを目指してきた製造現場では、不良品のデータが圧倒的に少なく、データ不足のために高精度で不良品を見つけ出すAIモデルを作り出せないというものだ。
また、これらがうまくいったとしても学習モデルが構築できた領域が本当に生産性に貢献するところに当てはめられるのかという問題がある。例えば、自動検査における虚報率(良品だが不良品と判断し報告した率)を数%下げられたとしても、AI導入のコストに見合うようなビジネスインパクトをもたらすことができるかを考えると難しい場合も多い。学習負荷が高い一方で成果が十分でないということが起こり得る。
機械メーカーがあらかじめAIを学習させて組み込む
そこで、こうしたAIに関する製造現場側のリスクを一部、機械を導入する機械メーカー側が肩代わりし、軽減しようというのが現在の動きだ。映像を利用した不良品の判定や、要因の分析、最適化条件の抽出など、想定される典型的な用途から事前に学習を行い、機械の機能としてモデルを組み込んだ上で出荷する形だ。
例えば、パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社は2020年5月に溶接工程において良品検査を学習済みAIにより自動化する「Bead Eye」というシステムを製品化している。これは溶接におけるピットや割れなどの典型的な不具合を事前に学習させておき、ユーザー側は学習なしに導入してすぐに検査できるものだ。
同様に、オムロンでは2020年7月に「キズ抽出」と「良品判定」の2つに特化した学習済みAIを搭載した画像処理システム「FHシリーズ」を発売している。これは、オムロンが外観検査の現場で培った画像処理と検査の知見を組み込み、キズのさまざまな発生パターンを先に学習させて製品として出荷するものだ。ユーザーは購入すればすぐにAIを活用し高精度なキズ抽出などが行える。
また、ファナックでは2015年に機械学習技術を持つベンチャー企業のPreferred Networks(PFN)と提携以降、産業用ロボットをはじめとする製造機械でのAI活用に積極的に取り組んでいる。例えば、機械学習による産業用ロボットの高速高精度なティーチングなどを既に実現している他、射出成形機や工作機械主軸の予兆保全でAI機能を組み込む取り組みなどを行っている。
DMG森精機も、工作機械上で工具の自動計測を行い、摩耗状況などを検証できる「ツールビジュアライザー」や、発生する切りくずをAIで自動除去する「AIチップリムーバブル」など、工作機械に組み込めるAI技術を次々に発表するなど、用途を限定したAIを学習させて機械の機能として提供する取り組みを強化している。
その他主要な機械メーカーが既に学習済みのAIを機械の機能の1つとして組み込む動きが活発化している。そもそも、機械の開発を行う中で機械メーカーはさまざまな試験を行っている。製造現場のユーザーよりも機械メーカーの方が学習に使えるデータを持っているということだ。また、製造現場そのものは作るモノや製造方法なども含めて固有の環境ではあるが、機械メーカーは導入時に試加工や試験導入などを行うケースが大半で、これらの試験過程でも学習データの獲得が可能だ。そう考えると、機械メーカーがAIを学習させる流れは合理的なように見える。今後もこの動きはさらに一般化していく見込みだ。
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