カスタマーサクセスは「2.0」時代に突入、製造業の成長エンジンの役割担う:製造業のための「カスタマーサクセス」入門(2)(4/4 ページ)
顧客の成功体験づくり、「カスタマーサクセス」の重要性に国内外の製造業から注目が集まっています。本連載ではこの概念を分かりやすく解説します。第2回は国内製造業のカスタマーサクセスの取り組み状況や、事例を取り組み事例と狙いを紹介していきます。
事業に成功した企業の多くがカスタマーサクセス重視
長期での顧客観察から得られる情報は、マーケティングにおける「企業にとっての優良顧客の定義決め、その顧客像が求める成功体験の内容、アプローチ方法」、また、セールスにおける「顧客LTV増加をもたらす活動の特徴抽出、顧客側感度」などの点で、彼らが気づいていない新たな示唆を与えることができます(図8)。
とはいえ現実には、既に確立されている個々の業務に対し、「顧客の成功体験が大事」と言葉だけ振りかざしても、そう単純にやり方が変わるものではありません。目の前の顧客から学習して、さまざまな業務オペレーションや人をつなぎ成長し続けるということは、企業のトップダウンでの戦略的推進無くしては実現できないと筆者は考えます。第1回で紹介したシーメンスのグローバル顧客パートナー支援チームは、「プリセールス、サービス、カスタマーサクセス、マーケティング、サポートのスタッフを擁して連携することで、カスタマーサクセスを成功させる」と述べています。
米国の大手ソフトウェア会社による調査結果によると、事業が成功している企業は他企業に比べ、カスタマーサクセスを非常に重要だと捉えている割合は70%にものぼり、この割合はその他の一般企業より21%も高いと示されています(図9)。カスタマーサクセスへの取り組むということは、企業の経営戦略そのものに深くかかわるものといえるのではないか、と筆者は考えます。
最後に、第2回の内容をまとめると、以下のようになるでしょう。
- 日系企業でカスタマーサクセス(顧客の成功体験)の必要性を感じない理由は、カスタマーサクセスのメリットの本質的理解不足
- カスタマーサクセスは2.0の時代に突入しており、さまざまな業種の企業で普遍的に広まり得る
- カスタマーサクセス2.0は1.0時代と異なり、顧客の製品利用サイクル全体での最適化にフォーカスする
- カスタマーサクセス2.0の効果の1つは収益効果。顧客への継続的なアプローチを通じ、長く使ってもらえる、他の製品の良さも知り利用してもらうなど、企業はアップセルやクロスセルの機会を生み出せる
- むやみやたらな顧客志向主義を支持しているのではない。顧客が求める成功体験を長期にわたり実現し続けるには多くのコストがかかる。顧客分析やターゲティングは当然ながら必要
- もう1つの効果は、企業内の学習エンジンとしての役割を担うことができる点。企業内でのさまざまなオペレーションや人がつながり、顧客の求めている成功体験とは何かを学び、企業自身も成長し続ける
- カスタマーサクセスへの取り組みは、トップダウンでの推進は不可欠。企業の戦略そのもので、業績にも影響し得る
次回は、実際に、このカスタマーサクセス2.0のアプローチを実践している企業事例を取り上げて、考察を進めていきます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ⇒「いまさら聞けない『アフター市場収益化』入門」のバックナンバーはこちら
- 製造業のサービス化、考えなければならない2つのリスクとは?
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。しかし、そこで語られることは抽象的で、いまいちピンと来ません。本連載では、そうした疑問を解消するため、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて分かりやすくお伝えするつもりです。第8回は「製造業のサービス化」で考えるべきリスクについて紹介します。 - 製造業は「価値」を提供するが、それが「モノ」である必要はない
製造業が生産する製品を販売するのでなく、サービスとして提供する――。そんな新たなビジネスモデルが注目を集めている。サービタイゼーション(Servitization、サービス化)と呼ばれるこの動きが広がる中、製造業は本当にサービス業に近くなっていくのか。インタビューを通じて“製造業のサービス化”の利点や問題点を洗い出す。本稿では、サービタイゼーションを研究するペンシルバニア大学 教授モリス・コーヘン氏のインタビューをお伝えする。 - サービタイゼーション実現に必要なこと、アフターサービスを見直そう
シンクロン・ジャパンは2018年11月27日、同社主催セミナー「グローバル製造業/エグゼクティブセミナー2018 世界で戦う強い製造業の条件〜AI/IoT時代を勝ち抜くアフターマーケット改革 」を開催した。 - 製造業の約70%がカーボンニュートラル対応の「全社方針あり」
日本能率協会は、製造業におけるカーボンニュートラル対応の現状や課題に関するアンケート調査結果を発表した。見える化による現場の省エネ活動は進んでいるが、今後はサプライチェーンを含めた取り組みが鍵になる。 - 製造業のアフターサービスを高度化し、収益性を高めるソリューション提供開始
セールスフォース・ジャパンは2022年7月12日、製造業のアフターサービス業務を支援する「Manufacturing Cloud for Service」の国内販売を開始した。スペアパーツの需要予測を行うとともに、アフターサービスに関する情報を製品のバリューチェーン全体で共有する仕組みを提供する。