すっごい滑るけど荷重を加えるとくっつく「滑る超音波透過シート」、東芝が開発:材料技術(2/2 ページ)
東芝がインフラなどの保守点検に用いられる超音波非破壊検査向けに超音波を通す超音波伝搬性と装置の滑らかな操作性を両立する「滑る超音波透過シート」を開発。今後、インフラ点検用ロボットをはじめさまざまな用途で社内外での活用に向けた提案を進め、2024年度末までに製品化することを目標としている。
大幅な検査時間の短縮が可能に
非破壊検査機器市場において、放射線透過装置に次いでシェアが高いのが超音波検査装置である。国内外で先進国を中心にインフラの老朽化は大きな課題になっており、非破壊検査機器市場は拡大を続ける見込みだ。これと併せて超音波検査装置の需要も高まっていくことが予想されている。
超音波検査装置を用いる際に重要な役割を果たすのが、検査対象に超音波を伝搬させるための接触媒質である。例えば、健康診断で超音波検査を受ける際に体に塗るゼリーは接触媒質の代表といえる。これまで構造部向けの超音波検査装置では、水などの液体が接触媒質として用いられてきた。しかし、液体が検査対象を汚染する可能性があるため、検査対象やその周囲を液体で汚さないような養生や、検査後には使用した液体の除去を行う必要がある。また、検査対象の表面が多孔質であったり濡れ性が低かったりする場合には液体の接触媒質は不適切だ。
これらの液体の課題をクリアする接触媒質としてシリコーンなどから成るゴムシートも利用されている。ただし、超音波を伝搬させるため一定以上の粘着性が必要であり、測定ごとに引きはがすという作業性の低さが課題になっていた。
滑る超音波透過シートは、液体とゴムシート、それぞれが接触媒質として抱える課題を解決するものだ。ゴムシートと同様に、液体のように検査対象を汚染するおそれはなく、養生や使用後の液体の除去も必要ない。その一方で、粘着させるゴムシートとは異なり、一定の荷重を加えると検査対象に超音波を伝搬させるための密着が可能であり、荷重を抜くと低摩擦状態になって探触子を検査対象に沿って移動させられる。また、耐久性についても、荷重を加える/抜くの繰り返し試験を数万回行った後も性能を維持できていることを確認している。
滑る超音波透過シートを用いた超音波検査装置は検査時間の短縮にも大きな効果が得られる。液体を使う場合、先述した養生や除去の作業に加えて、検査対象の内部構造を汚染しないように行う解体や再組み立てなどの作業が発生することもある。これらの作業が一切発生しないので、大幅な検査時間の短縮が見込めるというわけだ。また、1秒間に10回程度という多点測定の検査速度についても「液体を使う場合とそん色はなく、剥がさなければならないゴムシートと比べれば圧倒的に早い」(東芝 研究開発センター ナノ材料・フロンティア研究所 トランスデューサ技術ラボラトリーの平尾明子氏)としている。
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