実は限られた得意領域も実現したら絶大な影響力、国内の量子コンピュータ開発:量子コンピュータ(2/2 ページ)
産業総合研究所(産総研)は、現在進めている量子コンピュータと量子アニーリングマシンに関する研究開発の状況やつくばセンター(茨城県つくば市)の研究施設を報道陣に公開した。
制御を担う半導体インターフェイス
量子コンピュータ、量子アニーリングマシンの実現には、チップ以外にもさまざまな技術開発が必要になる。産総研は内閣府の量子技術イノベーション戦略に基づいて、量子デバイス開発拠点に認定されており、世界に比べてもユニークな機能を持った装置を備えている。
産総研で進めているのが半導体インタフェースの研究だ。日常で使われているPCは、CPUに制御と演算の機能が盛り込まれているが、量子コンピュータは演算と制御の機能が分かれている。量子ビットのチップは演算する役割を担っており、このチップを制御する装置が必要になる。
チップは希釈冷凍機の中の極低温下でしか動作せず、現状では制御機器を外に置き配線を介して信号をやりとりしている。ただ、この方式では将来的に量子ビットの大規模化が進むと配線の数なども増えていくため、別の方法が必要になる。
産総研では、制御機能を半導体の集積回路(クライオCMOS集積回路)にして希釈冷凍機の中に入れて動作させようとしている。希釈冷凍機の中は絶対零度(ー273度)に保たれており、トランジスタの動作は常温とはまるで異なる。極低温下でのメカニズムを解明するためには、評価試験を極低温下で行う必要がある。
産総研は2022年に300mmウエハー用極低温オートプローバー装置を導入し、極低温下でのトランジスタの特性評価を行っている。同装置はアジアでは初めて、世界でもアメリカのインテル、フランスの電子情報技術研究所に続いて3番目の導入という。これによって従来の100倍以上のスピードで特性評価ができるようになった。「極低温下での測定効率が研究開発のスピードを決める。極低温トランジスタの研究開発をする場所としては日本で随一となった」(川畑氏)。
超電導量子回路専用クリーンルーム(Qfab)は前工程から後工程まで対応した世界有数の超電導クリーンルームとなっている。
量子コンピュータの用途とは
万能の次世代コンピュータと見られがちな量子コンピュータだが、川畑氏は「量子コンピュータは得意な問題が限られている。量子コンピュータで処理が高速化できるのは、あまたの数学的問題の中でたった100個くらい。残りの問題は、普通のPCと比べても差はない。ただ、その100個の中に産業上重要なものがある。そのため世界中の企業がハード、ソフトの開発を進めている」と語る。
組み合わせ最適化に特化したアニーリングマシンも、同様に社会的影響力は大きい。「汎用の量子コンピュータに比べて応用範囲が狭いと思われるかもしれないが、組み合わせ最適化は日常生活のいろんな場面にある。例えば将来、自動運転が実現した世界では、特定の自動車の最短経路ではなく、交通システム全体から見た最適化が必要になる。決して用途が狭いということはない」(産総研 NEC-産総研量子活用テクノロジー連携研究ラボ 連携研究ラボ長の白根昌之氏)。
量子コンピュータの研究はまだ途上にある。息の長い研究開発が求められることは確かだ。
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