自動運転時代の運転の楽しみの行方は? 対話しながら運転できる電動オフロード車:電動化
アンシス・ジャパン主催のオンラインイベント「Ansys Simulation World 2022 - Japan」(開催日:2022年9月28日)にPotential Motors(ポテンシャルモーターズ)のCEOであるSam Poirier氏が登壇。サイドバイサイドビークルやユーティリティータスクビークル(UTV)といったオフロード車両の電動化や、“運転の楽しさ”が生き残り続ける可能性について語った。
アンシス・ジャパン主催のオンラインイベント「Ansys Simulation World 2022 - Japan」(開催日:2022年9月28日)にPotential Motors(ポテンシャルモーターズ)のCEOであるSam Poirier氏が登壇。サイドバイサイドビークルやユーティリティータスクビークル(UTV)といったオフロード車両の電動化や、“運転の楽しさ”が生き残り続ける可能性について語った。
CEOのPoirier氏は、「ライドシェアやADAS(先進運転支援システム)、自動運転車によって、私たちが運転していない状態が作り出されている。今後も運転する場面はなくならないが、過去数十年とは違った姿になるのではないか。1つは、楽しみのための運転だ。サーキットなどで運転体験を楽しむことが該当する。オフロードも同様だ。オフロードは運転体験を楽しむ機会として、ユーザーの注目を集めている。自然に触れられない地域に住む人も、自然のある遠方にアクセスするためにさまざまな方法を探すだろう」と、運転の楽しみを代表する場面の1つとしてオフロードが有望であると述べた。
サイドバイサイドビークルやUTVといったオフロードを探検するための車両は、現在80億ドルの市場規模に拡大しているという。オフロードに興味を持つユーザーが増えてきたことから、ここ数年で飛躍的に成長した。今後、公道を走行するオンロード車両と同様に環境規制の対象となる可能性もあるという。ただ、オフロード車両はオンロード車両に比べて規制が少ないため(安全性の軽視ではない)、イノベーションが数多く、迅速に起こり得る市場だとみている。「オンロード車両に次ぐ、電動化の第2の波になるのではないか」(Poirier氏)。
足元でオフロード車両は、オンロード車両と同様にソフトウェアの経験が少ない伝統的なプレイヤーに支配されている。また、ここ数年は製品を市場に供給することに各社が集中しており、サプライチェーンの問題の影響もあってイノベーションは限定的だった。しかし、オフロード車両もオンロード車両と同じく電動化やソフトウェアによって大きな変化を遂げようとしており、イノベーションによって価値を向上するチャンスの多い領域であるとポテンシャルモーターズは見込む。
オフロード車両の難しさ
オフロード車両は、オンロード車両よりも厳しい環境に置かれる。1回の走行で、頻繁に加減速を繰り返しながら、砂や泥、岩などからなる登り坂や下り坂などを体験する。こうした走り方は、車両の制御や、車両全体の設計に大きなハードルとなる。また、通信インフラが充実した市街地から離れているため、オフロード車両が走行するエリアによってはGPSや5Gのメリットを受けられない。さらに、ノイズや振動に加えて、粉じんや泥、やぶの中の走行など、車両に搭載するセンサーなどにとっても過酷な条件となる。
こうした条件は、オンロード車両ではエッジケース(頻度は少ないが特別な問題を含みうる事例)だが、オフロード車両には日常茶飯事になる。Poirier氏は「オフロード車両向けの技術開発の成果はオンロード車両にも将来的に生かされる」と期待を寄せる。
ポテンシャルモーターズでは、こうしたオフロード車両の電動化の課題をにらみながら、独自の電動オフロードUTVを開発していく。Poirier氏は、「ほとんどのUTVは似ていて、ドライバーからの信頼感を高めたり、ドライバーが車両と対話する方法を改善したりするための機能には革新がほとんどなかった。電動化によってドライバーに新しい運転体験を提供したい。オフロード走行にあまり興味がなかった人や、オフロード走行が怖くて乗れなかった人にも楽しんでもらえるようなUTVを目指している」と述べた。
そのためにカギを握るのが、ドライバーの運転技術を補い、厳しい環境でも車両の性能を最大限発揮できるような車両制御システムの開発だ。オフロードでこれを実現するには、どのような環境を走行しているのかを把握するための認識スタックが必要となる。
「地形の種類、想定される振動、車両が置かれる静止摩擦条件などから走行環境を把握し、その情報を基に車両の制御レベルを決定する。これによりサスペンションを変更できれば、高いレベルの振動数で大量の振動を伴いつつさまざまなタイプの地形を通過することができる。車輪の静止摩擦を向上すれば、立ち往生する困難な状況でも脱出できるよう、車両の能力を改善できる。こうした新技術を拡張性のあるアーキテクチャにまとめていく。自社の製品に搭載するだけでなく、他社にも提供する」(Poirier氏)
ポテンシャルモーターズはスタートアップ企業で、さまざまなプロジェクトにかける時間やリソースを節約しながら、開発をスピードアップするための手法の改良を重視している。その中でシミュレーションは、実際に試作する前にオフロードを想定した条件下で車両をテストするプラットフォームとして興味深い役割を担っているという。また、シミュレーションでオフロードの環境を作成し、実環境のデータを補完することが可能だとしている。「実際にオフロードを走行するデータ収集とシミュレーションの両方で行うべき作業がたくさんあり、アンシスのソフトウェアを活用している。設計の決定や技術的な問題への対処のスピードを向上させていく」(Poirier氏)
ハードウェアが完成する前に、作っているモノを早い段階で人に見せることができるのも、シミュレーションの利点だという。「ユーザーから早期にフィードバックをもらうことで、自分たちが提供する価値とユーザーが求めているものが合致しているかどうかを把握することができる。オフロード車両の電動化の方向性を示すとともに、技術を社外にも提供してオフロードの電動化に貢献したい」とPoirier氏は語る。
ポテンシャルモーターズでは現在、車両のテストプラットフォームを構築中だ。四輪のモーターシステムやセミアクティブサスペンションを搭載しており、車両制御のアルゴリズムや認識システムの検証に活用できる。2023年夏にも公開予定だという。
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