国内製造業のカーボンニュートラルへの対応は二極化、官民での取り組みが加速:ものづくり白書2022を読み解く(3)(5/5 ページ)
日本のモノづくりの現状を示す「2022年版ものづくり白書」が2022年5月に公開された。本連載では3回にわたって「2022年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第3回ではDXのカギとなるデジタル人材の確保や育成に加えて、世界的に注目されているカーボンニュートラルへの取り組みを掘り下げたい。
(2)素材産業のあり方の検討
日本の鉄鋼、化学などの基礎素材産業については、2050年カーボンニュートラルに向けて、生産プロセスの革新や化石燃料からの転換など大胆な投資を進めていく必要があると指摘している(図18)。そのためには研究開発や設備投資、オペレーションコストなど、新たなコストが生じるため、それにどう対応するかが大きな課題となっている。加えて、これらの実現に向けては、(1)低廉かつ安定したエネルギー(電気・水素・アンモニアなど)の供給、(2)サーキュラーエコノミーを実現するリサイクルシステムの確立、(3)膨大な脱炭素投資の回収メカニズムの構築、といった事業環境整備も併せて必要となる。
このような課題を背景に、基礎素材産業の将来像を共有し、さまざまな分野での変革を全体最適で進めるべく、2021年12月から経済産業省産業構造審議会の製造産業分科会において議論や検討が開始された。基礎素材産業への変革の要請に対して、(1)2050年までのカーボンニュートラル、(2)内外における需要の変化とグローバルな競争の激化、(3)デジタル化など新たなビジネスイノベージョンの取り込みと人材育成、の3点に着目して議論を進めている。今後も、引き続き検討を進めながら基礎素材産業の将来像を示していく予定となっている。
(3)日本の製造事業者の取り組み
カーボンニュートラルへの取り組みに対する製造事業者の認識に関しては、取り組みの必要性について、「大きく増している」と「増している」と回答した割合は約3割に上る(図19)。
カーボンニュートラルの実現に向けた具体的な取り組みとしては「製造工程におけるCO2排出削減」「CO2排出量の見える化」「再生可能エネルギーの導入」などが進められているが、いまだ「取り組みを検討中」という企業も多く、対応が二極化している状況が見て取れる(図20)。
一方で、CO2排出量の削減に向けた国際的なイニシアチブに参加する中小企業も増えつつある。2015年に採択されたパリ協定の目標に整合する温室効果ガス排出削減目標を掲げる企業による国際的なイニシアチブ「SBT(Science Based Targets)」に参加する企業は年々増加しており、日本企業は2022年3月8日時点で195社(認定取得済み160社)、コミット(2年以内のSBT設定を表明)表明済み35社となっている(図21)。SBTに参加する中小企業は2022年3月8日時点で49社(うち製造業は12社)となっており、2020年度の13社(うち製造業は3社)から着実に増加している。
カーボンニュートラル実現に向けた取り組みは世界的に加速している。中小企業にとっても取引継続のためにカーボンニュートラルの対応が重要となっている。製造事業者はこうした環境変化を理解し、競争力の維持、向上のために具体的な取り組みを実行することが求められている。
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筆者紹介
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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