国内製造業のカーボンニュートラルへの対応は二極化、官民での取り組みが加速:ものづくり白書2022を読み解く(3)(4/5 ページ)
日本のモノづくりの現状を示す「2022年版ものづくり白書」が2022年5月に公開された。本連載では3回にわたって「2022年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第3回ではDXのカギとなるデジタル人材の確保や育成に加えて、世界的に注目されているカーボンニュートラルへの取り組みを掘り下げたい。
国内製造業におけるカーボンニュートラル実現の取り組み
本稿の後半では、世界的な潮流となっているカーボンニュートラルの実現に向けた製造事業者の認識や取り組み状況を見ていきたい。
2021年はCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会合)など、カーボンニュートラルの実現に向けた国際的な議論が進展、具体化した年だった。全世界のCO2排出量の約9割を占める150を超える国、地域が年限付きのカーボンニュートラルを宣言した(図13)。
こうした国主導の取り組みに加えて、民間主導の取り組みも始まっている。米国ではCOP26において、米国気候問題担当大統領特使のジョン・ケリー氏と世界経済フォーラム(WEF)が、産業部門の炭素中立化やその市場創出に向けたイニシアチブ「First Movers Coalition(以下、FMC)」を立ち上げた。日本においても、企業主体のカーボンニュートラルに向けた取り組みを後押しする産官学金なども含めた仕組みである「GXリーグ」の構築に向けて準備を進めている(図14)。「GXリーグ」は、野心的な炭素削減目標を掲げる企業が、自らCO2排出量の削減に向けた取り組みを進め、目標に満たなかった場合には、自主的に企業間での排出量の取引を行う構想だ。2023年度に本格運用を開始すべく、2022年度に議論と実証の取り組みを行う予定となっている。
また、2021年10月には気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures、TCFD)の提言が改定され、温室効果ガスについて、全ての組織はScope1とScope2だけでなく、Scope3も開示することを検討すべきであることが示された(図15)。特に排出量の割合が大きい企業については注記で開示を「強く推奨する」と明記しており、サプライチェーン全体での排出量算定が一層重要となった。
カーボンニュートラルの実現に向けた日本の取り組み
これらの動きを受けて、国内でもサプライチェーン全体の脱炭素化やCO2排出量、削減量を可視化する取り組みが拡大している。2022年版ものづくり白書では、大きく3つの取り組みを紹介している。
(1)グリーンイノベーション基金
日本では2020年10月に宣言した2050年カーボンニュートラルを踏まえて、「経済と環境の好循環」の実現を目指す新たな成長戦略として「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(以下、グリーン成長戦略)を策定した。カーボンニュートラルの実現には民間企業などの従来のビジネスモデルや戦略を抜本的に見直す必要があるため、グリーン成長戦略では、今後成長が期待される14分野と各分野で目指すべき高い目標を示した上で、予算や税、規制改革、標準化、民間の資金誘導などさまざまな政策を総動員して民間企業などの取り組みを後押しする(図16)。
この中で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に総額2兆円の「グリーンイノベーション基金」が創設された(図17)。グリーン成長戦略で示した14の重要分野のうち、特に政策効果が大きく長期間の継続支援が必要な領域について、研究開発、実証から社会実装までを見据え、官民で野心的かつ具体的な目標を共有し、企業などの取り組みに対して10年間、継続的に支援する。
2021年8月には第1号案件として、国際水素サプライチェーンの構築に向けた輸送/貯蔵/発電などの技術開発を行う水素関連プロジェクトの実施者が決定された。さらに同年秋には、水素やアンモニア、LNGなどを燃料とする次世代船舶の開発や、水素航空機のコア技術や航空機主要構造部品の複雑形状、飛躍的軽量化を目指す次世代航空機の開発に関するプロジェクトの実施者も決まり、他分野でもプロジェクトの組成が順次進んでいる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.