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インタビュー

パナソニック コネクト樋口氏が語る、溶接機を開発していたあの頃製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)

パナソニック コネクトは2022年9月6日、過去に開発し販売していた溶接機2機種が、国立科学博物館の「令和4年度 重要科学技術史資料(未来技術遺産)」に認定されたと発表した。今回認定された2機種の内の1機種は、現在パナソニック コネクトを率いる代表取締役 執行役員 社長・CEOの樋口泰行氏が新卒で配属された際に開発に携わった製品だという。認定に当たり、樋口氏に当時の苦労や思い、モノづくりへの考えなどについて聞いた。

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短絡すると発生する大きな音に恐怖

MONOist 開発を行う中で当時苦労したことや印象に残っていることはありますか。

樋口氏 溶接機は金属を溶かしてくっつける機械だが、開発していたのは電気によって溶接を行う。そのパワーソースに対してパワートランジスタのインバーター制御を行うが、制御がうまくいかなかった場合に短絡して「ボーン」と大きな音を立てるがそれが怖くて、恐れながら検証などを行っていた。

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溶接機開発当時を振り返る樋口氏

 溶接機は大きなエネルギーを使用するためにどうしても回路にもノイズが発生し、その制御が非常に大変で、何度も何度も大きな音に驚きながら、これらを安定させるためにさまざまな工夫を行っていった。さまざまな要素が複雑に絡んでいるために、論理的なアプローチだけでは抑え込めないところも多く、試行錯誤を続けながら、問題点を解決していった。

 ある程度成果が生まれてくると、スパッタを削減したり、制御の方法によってさまざまな価値を作ることもできるようになってきた。こうした試行錯誤を繰り返しながら価値を見つけ出していく過程が大きなやりがいになった。

MONOist 当時「こういう技術があればよかったのに」と思っていたことはありますか。

樋口氏 当時の実験で一番つらかったのが、温度上昇実験だ。熱源を把握するために、機械を分解して温度を測定用の接点を取り付ける必要があるが、それが大変でつらかった。今は非接触で温度を測るような技術も数多く登場しており、当時大変だったことをやらなくてもよくなったことが多くあると思う。また、記録などもインスタントカメラで撮影して、行ってきたが今では映像などでデジタル記録しておき、その素材からさまざまなデータが抽出できるようになっている。そういう意味では、多くの技術進化がある。

アナログとデジタル、ハードウェアとソフトウェアの両面を生かす

MONOist モノづくりがさまざまな技術で変化していく中、パナソニック コネクトではソリューションやソフトウェアの領域に力を入れています。あらためてモノづくりの位置付けや考え方について教えていただけますか。

樋口氏 パナソニックグループがかつて取り組んできた家電など弱電分野の歴史を見ると、今までアナログで高度なノウハウを持って実現してきたことがデジタルになり、簡単に実現できるという流れがある。例えば、オーディオ製品はその典型だといえる。高度な技能が必要だったものが、デジタル化され半導体内の回路として組み込まれ、ソフトウェアプログラムとして簡単にコピーできるようになっている。

 もう1つの要素がインターネットだ。デジタル化によりモノそのものがソフトウェアで駆動するようになった上、インターネットによりそのソフトウェアを簡単に流通させることができるようになった。パッケージ製品が駆逐されるような状況が生まれている。

 こうした2つの変化は、一般家庭向け製品だけでなく、溶接機などの業務用製品についても影響が出てくる。その中でも差別化ができるモノづくりの強みがあるのかを考える必要がある。

 パナソニック コネクトの場合は、実装機や溶接機を中核とする「プロセスオートメーション」、業務用プロジェクターなど映像機器を扱う「メディアエンターテインメント」、航空機向けエンターテイントシステムを手掛ける「アビオニクス」、ノートPC「レッツノート」や頑丈モバイル端末「タフブック」を展開する「モバイルソリューションズ」の4事業を現在コアとしているが、差別化できる事業立地の良いところに集中することを考えた。技術的な要素だけでなく力を集中させるためのビジネス戦略が必要になっている。

MONOist 技術面でもデジタルやソフトウェアの領域は大きくなっているということでしょうか。

樋口氏 アナログ技術が生み出す付加価値とデジタル技術が生み出す付加価値のどちらが大きくなってきているのか。ハードウェアが生み出す付加価値とソフトウェアが生み出す付加価値のどちらが大きくなってきているのか。これらを単純に比較して考えると、デジタルやソフトウェアの領域が無視できなくなってきており、従来型のモノづくりだけでは厳しい領域が増えているのは事実だ。

 しかし、デジタルやソフトウェアだけでは実現できないこともまだまだ多く、そういう領域は残り続ける。そこで差別化ができるところを日本流で養っていくことが必要だ。米国の大手IT企業と同じアプローチではだめで、できないところを狙っていく。デジタルとアナログ、ハードウェアとソフトウェア、両面を追い求めていくのが日本メーカーとして重要になると考えている。

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