FA領域に高度な相互運用性を、新たな理想像を模索するシュナイダーエレクトリック:FAインタビュー(2/2 ページ)
Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)はスマート工場化の動きに合わせ、産業用IoT基盤「EcoStruxure(エコストラクチャ)」などを中心に“新たな制御”の実現を推進する。国内で産業領域を担当する、シュナイダーエレクトリック インダストリー事業部 バイスプレジデントの角田裕也氏に、同社のFA領域での取り組みと、国内での展開について話を聞いた。
想定の2倍以上売れているリニア搬送システム
MONOist 将来性を狙った「EcoStruxure Automation Expert」の一方で、直近ではリニア搬送システムの国内展開を開始しました。その手応えについてはいかがですか。
角田氏 当初は2021年末にリリース予定だったリニア搬送システム「Lexium MC12マルチキャリア」だが、世界的なモノ不足の影響を受けリリースが遅れ安定して供給できるようになったのは最近になってからだ。ただ、日本での受注は好調で想定の2倍以上のペースで売れている。リニア搬送システムはシュナイダーエレクトリック全体で見ても伸びている製品だが、グローバルと比較しても早いペースで受注が続いている。
リニア搬送システムは、ループ型のレール上にリニアモーターで駆動する複数のキャリアを走らせ、ワークを独立させて搬送と位置決めを行えるようにする搬送システムだ。シュナイダーエレクトリックの製品は、1つのコントローラーで複数キャリアの同期制御を行える他、前後工程のモーション制御やロボット搬送などを含めたシステム全体で完全同期のプログラミングを実現していることが特徴だ。さらに、デジタルツインを実現できる専用ソフトウェアを用意しシミュレーション機能などで、設計や試運転の工数やコストの大幅削減を実現している。
現在のところ国内では、包装機械や充填機メーカーからの反応が非常に良い。これらのメーカーの顧客である食品メーカーや薬品メーカーが、モノづくりの新たな価値向上を進めていく中で、リニア搬送システムの柔軟性や高速性などを求める動きが強まっており、これらの要求が伝わってきているためだ。
その中でシュナイダーエレクトリックが評価されているのが、外資でありながら国内の商習慣に根付いたサポートが行えるという点だ。リニア搬送システムは、現状では国内メーカーで同様の機能を用意しているところはほぼないので、海外メーカー同士のコンペになるケースが多い。その中でシュナイダーエレクトリックはHMIの「Pro-face」ブランドとして積み重ねてきた歴史があり、代理店網や国内サポート体制も充実している。これらが評価を受け、受注につながっている。
また、提案先が変化してきているところも大きい。HMIの時代の販売ではどちらかというと機械メーカーがカタログから選ぶだけのパターンも多かった。しかし、リニア搬送システムは、機械メーカーが決める要素もあるが、エンドユーザーに一緒に提案に行くケースなどもあり、工場やモノづくりの在り方そのものにアプローチできるようになってきている。これらを生かして提案の幅を広げられるようにしていく。
インバーター製品は想定の10倍以上の売り上げ
MONOist その他で動きはありますか。
角田氏 あまり注目されていないが、実はインバーター製品が大きく伸びている。インバーター製品は従来国内では日本メーカーが強く、シュナイダーエレクトリックとしては、グローバルでのラインアップはあるものの国内では積極的に提案してこなかった。しかし、モノ不足の影響を受け、国内で特にインバーター製品の供給不足が起きており、その中で、グローバルでの調達力があり、在庫も確保していたシュナイダーエレクトリックへの注文が急に増える形となった。当初想定の10倍以上の実績となっている。
MONOist 世界的にモノ不足の中、インバーター製品の在庫をなぜ確保できたのですか。
角田氏 事前に予測して回避したのではなく先に影響を受けて対策を施してきたというのが正確なところだ。グローバルでの影響は2021年秋ごろから調達が難しい部品が出始め、そのころに先に設計変更したり、部品や原材料の先行購買を行ったり、製品の値上げ交渉などを行ったりしてきた。それにより、ある程度モノ不足の影響を抑えつつ製品を供給できるようになっている。
インバーター製品は、従来日本ではなかなか受け入れられなかったので、シュナイダーエレクトリックにとっては大きなチャンスだと捉えている。ある程度モノ不足の状況が落ち着けば、容量の小さいものなどはまた日本メーカーに戻ると考えているが、容量の大きいものは、機能や性能面で差別化できる製品などもあるため勝負できる環境が残ると期待している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 新たにリニア搬送システムやSCADAを展開、シュナイダーエレクトリックが強化
シュナイダーエレクトリックは、スマート工場を中心としたソリューションを強化し、国内での展開を加速する。スマート工場化が進む中、従来のIoTゲートウェイに加え、新たにネットワーク機器の展開を開始する他、組み立て製造業向けのSCADA/HMIソフトウェアなどを投入する。さらに、市場が盛り上がりを見せるリニア搬送システムへの参入や、ソフトウェア中心の新たな制御システムの仕組みなどの提案も進める。 - サステナビリティを顧客拡大のカギに、シュナイダーエレクトリックが国内展開強化
Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)は2022年6月29日、日本市場向けの戦略説明会を開催し、カーボンニュートラル化に向けた動きへの提案を入口とし、新規顧客拡大を進めていく方針を示した。 - シュナイダーが国内SIerと初のパートナー契約、「EcoStruxure」などの展開拡大
シュナイダーエレクトリックは2021年8月18日、製造業界向けDX、IoTソリューションの提案を強化するため、アドソル日進とSIパートナー契約を締結したと発表した。 - IoTブランドとして強化、スマート&グリーンを訴えるシュナイダーエレクトリック
シュナイダーエレクトリックは2021年4月19日、日本向けの2021年の事業方針発表会を開催。「スマート&デジタル」をキーワードに、さまざまな業種におけるデジタル化と電力活用の効率化を推進していく方針を示した。 - スマート工場化は次段階へ、AI活用の定着とアプリケーション拡大に期待
スマート工場化の動きは着実に広がっている。その中で2022年はAIを活用した「アプリケーションの拡大」をポイントにデータ活用のさまざまな形が広がる見込みだ。 - スマート工場は“分断”が課題、カギは「データ取得」を前提としたツールの充実
工場のスマート化への取り組みは2020年も広がりを見せているが、成果を生み出せているところはまだまだ少ない状況だ。その中で、先行企業と停滞企業の“分断”が進んでいる。新型コロナウイルス感染症(COVID−19)対応なども含めて2021年もスマート工場化への取り組みは加速する見込みだが、この“分断”を解消するような動きが広がる見込みだ。 - スマートファクトリー化がなぜこれほど難しいのか、その整理の第一歩
インダストリー4.0やスマートファクトリー化が注目されてから既に5年以上が経過しています。積極的な取り組みを進める製造業がさまざまな実績を残していっているのにかかわらず、取り組みの意欲がすっかり下がってしまった企業も多く存在し2極化が進んでいるように感じています。そこであらためてスマートファクトリーについての考え方を整理し、分かりやすく紹介する。 - エッジは強く上位は緩く結ぶ、“真につながる”スマート工場への道筋が明確に
IoTやAIを活用したスマートファクトリー化への取り組みは広がりを見せている。ただ、スマート工場化の最初の一歩である「見える化」や、製造ラインの部分的な効率化に貢献する「部分最適」にとどまっており、「自律的に最適化した工場」などの実現はまだまだ遠い状況である。特にその前提となる「工場全体のつながる化」へのハードルは高く「道筋が見えない」と懸念する声も多い。そうした中で、2020年はようやく方向性が見えてきそうだ。キーワードは「下は強く、上は緩く結ぶ」である。