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超大型3Dプリンタを製造現場へ、コミュニティー主導型モノづくりで挑戦を続けるExtraBold越智岳人の注目スタートアップ(5)(3/3 ページ)

欧米が中心で、日本は大きなビハインドを負っている3Dプリンタ業界において、ペレット式の超大型3Dプリンタという変わった切り口で市場参入を目指すExtraBold。同社が発表した大型3Dプリンタ「EXF-12」は、FDM方式3Dプリンタを単純に大型化したものではなく、一般の製造ラインで活用されるための工夫が随所にちりばめられているという。同社 代表取締役社長の原雄司氏に超大型3Dプリンタ開発にかける思いを聞いた。

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コミュニティードリブンで目指す海外進出

 現在は、EXF-12に関心を示す企業に「プロジェクト」という形で契約し、各社とのPoC(概念実証)や要望に合わせた開発を進めながら、製品としての性能を高めている段階だという。

 「材料メーカーでいえば、新しい素材を作ってみたものの応用先や市場ニーズを把握し切れていないというケースもあり、EXF-12を通じてどういった市場を開拓できるのかをリサーチしています」(原氏)

 世界のアディティブマニュファクチャリング市場から見ると、日本は後塵を拝する状況だが、R&Dに対する意欲が高い企業は多いと原氏は指摘する。その熱意を着実に形にして、ビジネスに形作るためには、単に製品を売る/買うだけの関係にならず、互いに製品を育てていく関係の構築が不可欠だと語る。

 「基本的にはどの企業もアディティブマニュファクチャリングに対して、しっかりと調査/研究しています。『海外メーカーの3Dプリンタで試してみたけどうまくいかなかった』という話が多い中で、お声掛けいただいています。そういった経緯を踏まえて、1回の造形テストで終わらせるのではなく、細かくパラメーターを調整しながら、何度も検証を繰り返せるプロジェクト形式で各社とやりとりしています」(原氏)

 ExtraBoldの事業に当初から強い関心を抱き、EXF-12の第1号ユーザーになった前田技研も、そういったパートナーの1社だ。同社は自動車向け部品の鋳造用金型や試作品開発をなりわいとする。主軸事業である自動車産業以外での収益源を模索していた。既に3Dプリンタも導入していたが、新規事業を探索する過程でEXF-12に強い関心を持った。最終的には製品の導入だけでなく、ExtraBoldへの出資も決めた。購入したEXF-12は愛知県の本社ではなく、東京にあるExtraBoldのオフィスに置き、社員も派遣している。人と情報が集まりやすい東京で中長期的に研究/開発を進めることで、現場視点での活用モデルを模索するのが狙いだ。

 ExtraBoldの強みは、大型の工作機械開発のバックボーンがないにもかかわらず、品質にこだわった製品開発が実現できている点にある。それは原氏自身が製造業に長く身を置いていただけでなく、コミュニティー志向の強い稀有(けう)な経営者であることも有利に働いている。

 原氏は、ExtraBoldの前身となるデジタルアルティザンや、それ以前に代表を努めていたケイズデザインラボでも定期的に海外の3Dプリンタやデータ活用動向について積極的に情報を発信していた。

 加えて、2019年に国内大手自動車メーカー7社のカーインテリアデザイナーらが集って3Dプリント作品を披露した「1kg展」ではエグゼクティブアドバイザーとして各社のハブとなるなど、大企業の新しいチャレンジを支えてきた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が顕著だった2019年には、医療従事者向けのフェイスシールドを3Dプリントで製造し、地域の医療施設へ届ける取り組みも主導した。

 こうした原氏の活動に関心を示す製造業関係者は多く、現在EXF-12に関連するプロジェクトは10件以上進んでいるという。パートナーとなる顧客は大企業から中小企業に至るまで幅広い。

ExtraBoldのインターン生。実際に「EXF-12」で自ら作成したデータを造形している
ExtraBoldのインターン生。実際に「EXF-12」で自ら作成したデータを造形している[クリックで拡大] 出所:ExtraBold

 こうしたコミュニティードリブンな原氏のスタンスは、3Dプリンタ開発でも十二分に発揮されている。ExtraBoldでは3Dデータの人材育成に関心を持つ企業から長期インターンを受け入れ、3Dデータの作成から造形までをレクチャーしている。一方でインターンの所属する業界における3Dデータの活用方法の模索や製品開発にも参加してもらうことで、双方にとってメリットのある仕組みとしている。

 3Dプリント業界が最終製品の製造にシフトしていく中で、特異なポジションを築こうとするExtraBold。日本では数少ないアディティブマニュファクチャリング分野のハードウェアスタートアップとして海外進出も視野に入れているようだ。

 「既にアジア市場への進出は視野に入れています。同時並行でシンガポールに研究開発に特化した子会社を設け、既存の工作機械に装着できる3Dプリントヘッドの実用化を目指しています。3Dプリンタを新規に導入しなくても、既存の機械を活用できればマテリアルリサイクルのハードルはさらに下がるでしょう」(原氏)

 “Made in Japan”のブランドが色あせてから久しい。しかし、ExtraBoldは日本だからこそ実現できる技術力と国内サプライチェーンを駆使して、世界に新しい潮流のモノづくりを提案しようとしている。

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筆者プロフィール

越智 岳人(おち がくと)

1978年生まれ。大学卒業後、複数のB2B業界でWebマーケティングに携わった後、2013年に株式会社メイテックでWebメディア「fabcross」を立ち上げる。サイト運営と並行して国内外のハードウェアスタートアップやメイカースペース事業者、サプライチェーン関係者との取材を重ねる。2017年に独立。フリーランスとして取材活動を続ける他、ハードウェアスタートアップを支援する事業者向けのマーケティング/コンサルティングや、企業、地方自治体などの新規事業開発やオープンイノベーション支援に携わる。2021年にシンツウシン株式会社を設立。


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