今も働き続ける「はやぶさ2」、プラス10年以上もの長旅に耐えられるのか〜拡張ミッション【前編】〜:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(20)(4/4 ページ)
2020年12月に地球へ帰還し、小惑星「リュウグウ」からのサンプルリターンというミッションを完遂した小惑星探査機「はやぶさ2」。しかし、はやぶさ2の旅はまだ終わっていない。現在も「拡張ミッション」となる2つの小惑星の探査に向けて旅を続けているところだ。果たしてはやぶさ2は、追加で10年以上もの長旅に耐えられるのだろうか。
リアクションホイールを逆回転!?
リアクションホイールは通常、同じ方向にのみ回転させ、逆回転は行わない。しかしゼロクロスを許容し、回転数の許容幅をマイナス側にまで広げることができれば、アンローディングの回数を減らし、推進剤の消費をさらに抑えることが可能になる。
例えば、Z軸まわりに探査機を180度反転する場合を考えよう。この場合、何もしなければ、X軸とY軸のリアクションホイールの回転数は、プラスマイナスが逆になる。しかしそれを避けるために、途中でアンローディングする必要があり、これまでは実際にそういった運用を行っていたのだが、ゼロクロスを許容すれば、これが不要になる。
その場合、リアクションホイールの負担が気になるところだが、はやぶさ2で使われている機種は、ゼロクロスに耐性があって問題はないといわれているとのこと。ただ、ゼロ付近で頻繁に回転方向が変わるのは良くないため、なるべく早くゼロ付近を通り過ぎるようにしているそうだ。
拡張ミッションに入ってから、すでに1年半以上が経過しているが、こういった工夫により、推進剤は今のところ「ほとんど減っていない」という。
三桝氏は「今日我慢すればミッションを1日長くできるという思いでやっている」と語る。アンローディングの消費を頑張って抑えれば、その分、1998 KY26に到着してからやれることが増える。推進剤の消費量削減は、トピックとしてはかなり地味ではあるものの、成果の最大化のために、極めて重要な取り組みだといえるだろう。
また、今のところリアクションホイールは健全だとはいえ、問題が起きる前から、対応を検討しておくのは重要である。X軸とY軸はともかく、命綱のZ軸が2台とも壊れるような事態は正直考えたくもないが、そういったケースも既に検討は開始しており、「不可能ではないかなという感触」は得ているそうだ。
もう1つ、運用の低リソース化にも触れておきたい。拡張ミッションは長丁場な上、人員にも限りがある。クリティカルなタイミングは別にして、イオンエンジンも運転していないようなときには、可能な限り、人的/資金的リソースを削減する必要がある。
現時点では、週に2パス、つまりコマンドをまとめて週に2回送るだけで運用できるところまでは実現しており、さらにこれを1パスに減らすのが目標だという。なお、それでも全く目を離しているというわけではなく、コマンドを送らない日でも探査機からのテレメトリーは自動でダウンリンクしており、何かあればすぐ対応することは可能になっている。
次なるイベントはフライバイ観測!
順調にいけば4年後、はやぶさ2は2001 CC21に到着。すれ違いざまに観測(フライバイ観測)を行うわけだが、ここでの大きな問題は、はやぶさ2はもともとランデブー観測用に設計されており、フライバイ観測用の機器は搭載されていないということだ。では一体どうやって観測すれば良いのか。そのあたりの話は、後編の次回ということにしたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載『次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う』バックナンバー
- かくして「はやぶさ2」は帰還し再び旅立った、完璧な成果は3号機につながるのか
小惑星探査機「はやぶさ2」が地球へ帰還し、予定通り再突入カプセルを回収することに成功した。カプセルからはグラム単位という大量のサンプルも確認されている。まさに「完璧」と言っていい成果だ。本稿では、はやぶさ2の帰還の模様や、再び地球から旅立って挑む「拡張ミッション」、これらの技術がどう生かされていくかについて解説する。 - 2つの改良でより確実なサンプルリターンへ〜再突入カプセルの仕組み【後編】〜
いよいよ、小惑星探査機「はやぶさ2」が帰ってくる。2回のタッチダウンで取得したサンプルを地球に送り届ける最後の関門となるのが地球大気圏への再突入だ。そのために使われる「再突入カプセル」は、はやぶさ初号機と比べ主に2つの点で改良が施されている。 - 1万℃の高熱から貴重なサンプルを守れ!〜再突入カプセルの仕組み【前編】〜
いよいよ、小惑星探査機「はやぶさ2」が帰ってくる。2回のタッチダウンで取得したサンプルを地球に送り届ける最後の関門となるのが地球大気圏への再突入だ。そのために使われる「再突入カプセル」とは、どのような装置なのだろうか。 - 新型μ10の3つの改良点、次世代型はDESTINY+へ〜イオンエンジンの仕組み【後編】〜
順調にミッションをこなしている小惑星探査機「はやぶさ2」。サンプルを持ち帰るための帰路で重要な役割を果たすイオンエンジン「μ10」は、はやぶさ初号機で見いだした課題を解決するために3つの改良を施している。さらなる次世代型の開発も進んでおり、2021年度打ち上げの「DESTINY+」に搭載される予定だ。 - はやぶさ2が遥か彼方の小惑星に行って戻れる理由〜イオンエンジンの仕組み【前編】〜
これまでのところ順調にミッションをこなしている小惑星探査機「はやぶさ2」。小惑星リュウグウまでの往路、そしてサンプルを持ち帰るための帰路で重要な役割を果たすのがイオンエンジンだ。このイオンエンジンの仕組みについて解説する。 - 「はやぶさ2」第2回タッチダウンの全貌、60cmの着陸精度はなぜ実現できたのか
小惑星探査機「はやぶさ2」が2019年7月11日、2回目のタッチダウンに成功した。60cmの着陸精度を実現するなど、ほぼ完璧な運用となった第2回タッチダウンの全貌について、はやぶさ2の取材を続けてきた大塚実氏が解説する。 - 「はやぶさ2」は舞い降りた、3億km彼方の星に、わずか1mの誤差で
2010年6月の「はやぶさ」の帰還に続き、日本中を興奮の渦に巻き込んだ「はやぶさ2」の小惑星「リュウグウ」へのタッチダウン。成功の裏には、次々と起こる問題に的確に対処したプロジェクトチームの対応があった。打ち上げ前からはやぶさ2の取材を続けてきた大塚実氏が解説する。 - 「はやぶさ2」は重大トラブルを回避する安心設計 〜化学推進系の信頼性対策【前編】〜
姿勢制御に使われるリアクションホイールの故障を挽回する活躍を見せた一方で、燃料漏れを起こし「通信途絶」という大ピンチを招いた「はやぶさ」初号機の化学推進系。「はやぶさ2」ではどのような改善が図られているのだろうか。 - 「はやぶさ」「あかつき」の苦難を糧に 〜化学推進系の信頼性対策【後編】〜
「はやぶさ2」の化学推進系は、どのように改善が図られているのか。大きなトラブルに見舞われた「はやぶさ」初号機の化学推進系について取り上げた【前編】に続き、今回の【後編】では、はやぶさ2で施された対策について具体的に見ていくことにしよう。 - はやぶさ2は燃え尽きない! そのまま別天体へ向かう可能性も 〜ミッションシナリオ【後編】〜
小惑星探査機「はやぶさ2」が、打ち上げから地球帰還までにこなさなければならないミッションシナリオを整理する。【後編】では、なぜ小惑星「1999JU3」の滞在期間が1年半なのか、その理由とともに、サンプルリターン探査の難しさを詳しく解説する。