はやぶさ2は燃え尽きない! そのまま別天体へ向かう可能性も 〜ミッションシナリオ【後編】〜:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(7)(1/3 ページ)
小惑星探査機「はやぶさ2」が、打ち上げから地球帰還までにこなさなければならないミッションシナリオを整理する。【後編】では、なぜ小惑星「1999JU3」の滞在期間が1年半なのか、その理由とともに、サンプルリターン探査の難しさを詳しく解説する。
前回お届けした【前編】では、小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「1999JU3」に到着するまでの軌道計画について説明した。
その続きとなる今回の【後編】では、地球へ帰還するまでのミッションシナリオについて詳しく見ていきたいのだが、まずは【前編】で話の途中だった「なぜ滞在期間が“1年半”なのか」という点から解説を始めることにする。
自転軸の向きは大問題
1999JU3への到着後、「はやぶさ2」の拠点となるのが「ホームポジション」と呼ばれる場所である。基本的に「はやぶさ2」はこの場所に滞在して、小惑星の科学観測を行う。そして、サンプル採取に向かう際はここから出発し、またここに戻ってくる。まさにホームポジションは、1999JU3における「はやぶさ2」の“家”のような場所といえる。
ホームポジションの位置は、1999JU3から地球や太陽方向に20km離れた場所になる。小惑星(1999JU3) ― ホームポジション ― 太陽 ― 地球が近い方向に並ぶわけで、「はやぶさ2」は常に地球や太陽を背にして、ひなた側から小惑星を観測し、降下していくことになる。この位置関係は重要なポイントなので、ぜひ覚えておいてほしい。
初代「はやぶさ」(以下、初代)が向かった小惑星「イトカワ」は、黄道面に対して立った状態の自転軸を持っていたため、小惑星が1回転するのを眺めていれば、全領域を見ることができた。ところが、この“立った自転軸”というのは「たまたま」であり、今回の1999JU3の場合、地上からの観測結果によれば、自転軸は「横倒し」になっている可能性があるとみられている。
これは非常に大きな問題である。1999JU3への到着時、もしもこの自転軸が本当に横倒しになっていて、ホームポジション側を向いていたら、ホームポジションからは、反対側が一切見えないことになる。ホームポジション側が“北極”であるならば、いつも“北半球”だけが見えていて、“南半球”は見えないわけだ(下図の①の位置)。
1999JU3の“1年”は約474日。もちろん、“3カ月”後には“赤道”上空から見られるようになり、“半年”後には逆に南半球だけが見えるようになるのだが、もし仮に、1999JU3への滞在期間が短い計画だとすると、運が悪ければ、観測やタッチダウンのできない領域が出てくる可能性もある。その点、「はやぶさ2」は1999JU3に“1年”以上滞在する計画なので心配はない。
これが前述の理由なのだが、「じゃあ、裏側に回り込めばいいじゃないか」と疑問に思った人もいるかもしれない。ところが、仮にそうすると、探査機の向きが反対になり、さらに小惑星の陰にも入ってしまうため、発電や通信ができなくなる恐れがあり、大きな危険にさらされる。それに、夜側は暗いので観測にも適さない。こうしたもろもろの条件を加味し、検討すると、“ひなた側からの進入”がベストなのだ。
ちなみに、このホームポジションの位置関係は、初代のときも同様であったのだが、距離は約7kmともっと短かった(イトカワと近かった)。これは、イトカワの方が1999JU3よりもサイズが小さく、重力が弱かったためだ。仮に、イトカワよりもサイズが大きく、重力の強い1999JU3で、初代と同じ7kmの地点にホームポジションを設定したとすると、その場所を維持するために、より多くの燃料を消費してしまう。だから、もっと遠ざけているのだ。
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