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「はやぶさ2」は重大トラブルを回避する安心設計 〜化学推進系の信頼性対策【前編】〜次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(8)(1/3 ページ)

姿勢制御に使われるリアクションホイールの故障を挽回する活躍を見せた一方で、燃料漏れを起こし「通信途絶」という大ピンチを招いた「はやぶさ」初号機の化学推進系。「はやぶさ2」ではどのような改善が図られているのだろうか。

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次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う

 「はやぶさ」初号機の旅において、化学推進系についての評価は両極端に分かれるかもしれない――。姿勢制御に使われるリアクションホイールの故障を挽回する大活躍をした一方で、燃料漏れを起こし「通信途絶」という絶体絶命のピンチを招いたからだ。「はやぶさ2」では、信頼性の向上が大きな注目点となるだろう。

 「はやぶさ2」で化学推進系を担当するのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)/月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)の森治助教。2010年に打ち上げられた小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」のプロジェクトマネージャーを務めた人物でもある。「はやぶさ」初号機では、スーパーバイザーの1人として運用に関わっていた。


森治助教
「はやぶさ2」で化学推進系を担当するJAXA/JSPECの森治助教

>>【後編】はこちら

化学推進系の役割

 化学推進系というのは、燃焼などの化学反応を利用して推力を得る推進システムのことだ。ロケットエンジンの一種であるので、「化学推進エンジン」などと呼ばれることも多い。衛星の外側からはノズルくらいしか見ることができないが、エンジンの燃焼室だけではなく、燃料タンクや配管なども含んだシステムとしての総称である。

 「はやぶさ」のエンジンというと「イオンエンジン」が有名だが、こちらは化学反応ではなく、電力を利用しているため、「電気推進」と呼ばれる。このイオンエンジンについては、また回をあらためて紹介することにして、今回は化学推進についてのみ見ていくことにしたい。

 ロケットエンジンは、何らかの質量を勢いよく噴射する反動により推力を得る。ゴム風船に空気を入れて膨らませ、手を離すと、空気を吹き出して飛んでいく。ロケットエンジンの原理はまさにこれと同じだ。化学推進系の場合は、燃料を燃やして高温・高圧のガスを発生させ、それをノズルから噴射しているのだ(2液式の場合)。

化学推進系のスラスタ
化学推進系のスラスタ(推進器)にはさまざまな種類がある

 飛行機で使われているジェットエンジンは、周囲の空気を燃焼に利用しているため、空気がない宇宙空間では動かすことができない。しかし、化学推進系は、燃料の他に酸化剤も搭載しているので、真空中でも燃焼が可能だ(燃料と酸化剤を合わせて「推進剤」と呼ぶ)。衛星では、ヒドラジン(燃料)と四酸化二窒素(酸化剤)の組み合わせが一般的。これは、混合するだけで自己着火する性質があり、信頼性が高いためだ。

 化学推進系は前述の通り、推力を発生させるための装置である。この推力を利用して、化学推進系は「軌道制御」と「姿勢制御」を行うことができる。一方向のみに噴射すれば、衛星に加速度を与えて、軌道を変えることができる。これが軌道制御だ。また下図のように複数のエンジンを逆方向に噴射してやれば、衛星を回転させ、向きを変えることができる。これが姿勢制御である。

軌道制御と姿勢制御について
噴射するスラスタを変えることで、軌道制御も姿勢制御も可能だ

 姿勢制御に使われる化学推進系は、「RCS(Reaction Control System)」とも呼ばれる。よって本記事でも、「はやぶさ」の化学推進系について、以降はRCSと呼ぶことにしたい。

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