走りと燃費を両立、新型クラウンの「1モーターハイブリッドトランスミッション」:電動化(2/2 ページ)
アイシン、デンソー、BluE Nexusは2022年7月22日、トヨタ自動車の「クラウン」の新モデル(クロスオーバー RS)に1モーターハイブリッドトランスミッションが採用されたと発表した。新型クラウン(クロスオーバー)は全車ハイブリッド車(HEV)で、電気式4WDのみの設定となる。日本での発売は2022年秋を予定している。日本のみで販売していた従来モデルとは異なり、40の国と地域で展開する。
走行性能向上のカギを握るクラッチ
1モーターハイブリッドトランスミッションは、ダイレクト感のある走りと上質なドライブフィーリングの実現を目指して開発した。ダイレクト感に直結する発進応答性の向上は、新開発の高耐熱発進クラッチを採用するとともに、その制御技術の改善によって実現している。
駆動用モーターに収められたクラッチは、発進用とエンジン切り離し用の2つがある。2つのクラッチと駆動用モーターを協調制御することにより、車両発進時や走行時などあらゆる状況で、スムーズかつ静かにエンジンの始動/停止が可能だという。この機構によりスターターモーターをなくすことができた。
また、トルコンに代わる応答性が必要になるため、発進クラッチは油圧センサーによってリアルタイムに油圧を補正し、目標トルクに対する高い応答性を実現している。
新型クラウン(クロスオーバー)はHEVではあるが、バッテリーの残量などさまざまな要因によってモーターで発進できない場合があり、エンジンの駆動力での発進も必要になる。エンジンが大トルクで車重も大きく、けん引も想定していることから、クラッチを滑らせながら発進する際は負荷が大きい。さらに、スペースも少ないため熱の影響を受けやすい構造で、熱対策が課題になった。この状態で摩擦材を冷却するため、大流量の高電圧電動オイルポンプの採用、摩擦材の耐熱性向上、プレートの板厚アップなど耐熱技術を織り込んでクリアした。
ダイレクト感を重視しすぎるとショックやギクシャク感につながりかねない。エンジンの始動/停止や変速時はクラッチ制御によって加速度をコントロールし、ダイレクト感とスムーズさを両立している。また、駆動用モーターを積極的に活用する制御としており、アクセル操作に対してレスポンス良くトルクを伝達することでダイレクト感のある走りが得られる。
コイルの形状や生産技術で大径扁平モーターに
FFベースの新型クラウン(クロスオーバー)はエンジンルームが限られるため、1モーターハイブリッドトランスミッションは全長のサイズアップが困難だった。今回、新型クラウン(クロスオーバー)に採用された駆動用モーターは、コイル拡張組み付けなど新開発の生産技術によるステーター軸長の短縮の他、コイル冷却や磁石配置の最適化によって、大幅にモーターの体格を低減した。
駆動用モーター向けに開発した同心カセットステーターによって、軸長を従来製品に比べて13%短縮した。実現に貢献した生産技術の1つが、カセットコイル成形だ。従来のU字型のセグメントコイルでは溶接箇所が多く、溶接継手のスペースを確保するために軸長が長くなっていた。今回は、コイルを連続した3D形状に成形するカセットコイルにより、溶接箇所を従来の480カ所から96カ所に低減した。コイルを内径側にセットし、径方向に同心円状に変形させながらモーターコアに組み付ける拡張組み付け技術も、同心カセットステーターの実現に貢献した。
これにより大径扁平なモーターとなったことで、2つのクラッチをモーターのローター内側に配置でき、製品自体の全長増加を抑制した。6速ATとの部品共通化や生産ラインの共通化によってコスト抑制も図った。
パワーモジュール片面冷却でインバーターも薄型化
インバーターはパワーモジュールを片面冷却とすることで薄型化を図り、搭載性を高めた。インバーターはトランスミッションの直上に搭載しており、従来使われていたモーターとインバーターの接続ハーネスやブラケット、ロアカバーを削減した。コスト削減と小型化に貢献している。
インバーターでは、モーターコントローラーや高電圧電動オイルポンプのドライバーに片面冷却のSiパワーモジュールを採用した。片面冷却で統一することでレイアウトを最適化し、密閉型の直冷構造で冷却性能を高めた。
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