デジタルエンジニアの定義と必要なこと:デジタルエンジニアの重要性と育成のコツ(1)(3/3 ページ)
現代のモノづくりにおいて、3D CADやCAE、CAM、3Dプリンタや3Dスキャナーといったデジタル技術の活用は欠かせない。だが、これらを単に使いこなしているだけではデジタル技術を活用した“真の価値”は発揮できない。必要なのは、デジタル技術を活用し、QCDの向上を図り、安全で魅力ある製品を創り出せる「デジタルエンジニア」の存在だ。連載第1回では「デジタルエンジニアの定義と必要なこと」をテーマにお届けする。
デジタル技術を最大限に生かすために必要なこと
デジタルネイティブ世代、そして、Z世代と呼ばれるスマートフォンが生まれた時からあり、さまざまなデジタルサービスを当たり前のように利用している若い世代の人たちにとって、デジタルツールを使いこなすのに、それほど多くの時間を必要としません。
ただし、デジタルエンジニアは、デジタルツールを単に使いこなすだけではなく、安全で魅力ある製品を創り出せる人であるかが問われます。そのため、デジタル技術以外の知識やスキル、経験をどれだけ持っているかが重要になります。製造業でいえば、構造力学や材料力学などの設計の知識だったり、切削や溶接といった加工技術だったり、それらを併せ持つことで、3D CADやCAE、CAMというデジタルツールを手に入れたときに、初めて最大限の効果を発揮できるのです。
また、人間性や五感といった、デジタルの逆でいうアナログの部分の感性がとても大切になります。例えば、設計するに当たり、使う人が使いやすいものを作る、喜んでもらえるものを作るといったように、相手のことを考えられる“人間力”です。
実際に、モノづくりの現場で起きていることはデジタルではなく、アナログな事象ばかりです。そのため、アナログで起きている課題や問題をデジタルでどう解決できるかを考え、実際にアナログで起きていることをデジタルに置き換えられる人材(=デジタルエンジニア)が求められます。また、アナログで起きている事象を判断するには、目で見て、音を聞き、臭いを感じ、手で触れるといった“人間の五感”が不可欠です。その五感を鍛える、養うことも重要です。
IoT、AI、ロボティクスなどを活用した“スマート化”の取り組みに関する話題をよく見聞きしますが、実際のモノづくりの現場では、スマートにいくものばかりではなく、アナログ的な難題に直面することもしばしばあります。このような場合、全てが必ずしもデジタル技術で解決できるわけではなく、アナログ的なアプローチで解決できることも多くあります。例えば、生産性を向上させるとなった場合、生産ラインをシミュレーションするツールなどもありますが、それ以前に、3S(整理、整頓、清掃)がきちんとできていなければ、そこから改善すべきです。
また、データ管理でも同じようなことがいえます。社内でのルール作りやその徹底がきちんとなされていない環境では、PDMなどのデータ管理ソフトを導入してもうまくいきません。チーム力、団結力が重要です。
結局のところデジタル技術は“道具”であり、戦うための“武器”です。道具/武器を手に入れたときに、その人、その企業にデジタル以外の能力がどれくらい備わっているかで、それらを生かし切れるかどうかも変わってきます。
今回は、普段デジタル技術を教えている立場として、少し逆のことを書いているかもしれませんが、デジタル技術だけを教えればよい! デジタル技術だけを使える人材を育成すればよい! ということではないと日々痛感しています。
今後の連載では、デジタルツールの紹介や筆者がセミナーや講習会で、どのようなことに気を付けて教えているかなどをお伝えしていきながら、デジタルエンジニアの重要性と育成のコツを解説していきますが、「デジタルツールだけを覚えれば優秀なデジタルエンジニアになれる、というわけではない」ことを最初にお伝えしておきます。
筆者は、アナログとデジタルの技術をうまく組み合わせることで、新たな道が開けると思っています。それを信じて、日々自分にできることをコツコツと積み上げながら活動しています。次回以降もぜひご期待ください! (次回へ続く)
筆者プロフィール
小原照記(おばら てるき)
いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。
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