製造現場の段取り工程を自動化、高精度な位置姿勢計測マーカーを開発：FAニュース

産業技術総合研究所は、加工物などの位置姿勢を測定するための測定デバイス「3DSマーカーシステム」を開発した。高精度な位置姿勢の測定が可能で、加工や組み立てなど製造現場で活用できる。

[MONOist]

　産業技術総合研究所（産総研）は2022年6月21日、加工物などの位置姿勢を測定するための測定デバイス「3DS（3-Dimensional shape using Shadow）マーカーシステム」を開発したと発表した。高精度な位置姿勢の測定が可能で、加工や組み立てなど製造現場で活用できる。

　マーカー型AR（拡張現実）は、特定のパターンを持つマーカーを用いて、現実にある物や現実世界そのものを空間的に認識して提示位置を特定し、端末の画面などに付加情報を表示する。カメラとマーカーのみで情報を表示できるため、産総研では、製造業の部品加工や組み立てに応用可能な高精度位置姿勢測定マーカーの研究開発に取り組んできた。

　今回の研究では、3次元形状によって上面のエッジと照明がつくる影をカメラで撮影し、マーカーの位置姿勢を検出する測定原理を提案。マーカー上面に対し、カメラとの相対位置を固定した照明を斜めに入射させると、下面上に上面のエッジが影として投影される。その影の長さは、Z方向の照明位置の変化に伴って変化する。

「3DSマーカーシステム」の測定原理［クリックで拡大］ 出所：産業技術総合研究所

　カメラとマーカーが正対した場合でも、影の長さを精度良く測定すると、Z方向の距離をXY方向と同等の精度で測定できる。マーカーが傾いても、カメラと照明の相対位置やマーカーの高さ、影の長さからZ方向の距離とマーカーの傾きを分離できる。照明とマーカーがつくる影を活用したこの立体形状マーカーは、これまで課題だったマーカーとカメラ正対時の姿勢精度に加え、それに伴う位置精度の低下を解消する。

　試作したこの3DSマーカーシステムは、マーカー撮影用3DSマーカーセンサーと撮影対象の3DSマーカーで構成する。カメラは、照明の点灯位置で変化する3DSマーカーに投影される影の位置と形状を撮影。これらは、照明の点灯位置で変化する。

　照明には単波長のLEDを使用しており、回折の影響を軽減し、影の境界にぼやけが少ない撮影が可能だ。3DSマーカーは、アルミニウムに縦横10mm、深さ8mmの直方体穴を放電加工して作製。穴の縦横辺の長さや深さ、加工の手法は自由に設定できる。

試作した「3DSマーカーシステム」［クリックで拡大］ 出所：産業技術総合研究所

　6軸の1つである、Z（奥行き）方向移動に伴う3DSマーカーの測定値と市販のレーザー変位計の測長結果は、ほぼ同じ値を示した。また、3DSマーカーの位置をXとZ方向に0.5mm間隔で各5mm変化させ、位置姿勢を計110回測定したところ、3DSマーカーの位置精度は約3μm、姿勢精度は約0.02度だった。

3DSマーカーの繰り返し精度［クリックで拡大］ 出所：産業技術総合研究所

　工作機械やロボットなどの装置に3DSマーカーセンサーを設置することで、その装置の座標系上で設置された位置姿勢をあらかじめ校正できる。その後、3DSマーカーシステムで測定することで、装置の座標系に対し、加工物がどのような位置姿勢で設置されているかを把握可能になる。複数の装置に3DSマーカーセンサーを設置して校正し、測定結果をシステム同士で共有すれば、異なる装置間でも加工物の位置姿勢を共有できる。

　同システムの活用により、加工物、治具、工具などの位置姿勢を、工作機械などの製造装置や搬送装置の座標系へ簡単かつ高速に設定できる。専用カメラ1台で、自作可能な単純形状マーカーを撮影するだけで測定でき、コスト低減にもつながる。

「3DSマーカーシステム」の活用イメージ 出所：産業技術総合研究所

　今後は、測定環境に応じて、適切なカメラやカメラ用光学系、画像処理法、マーカー形状などを検討し、機能や精度の向上を図る。同時に、3DSマーカーを用いて、加工物の工作機械間の搬送、加工物設置（段取り）の自動化の実証を実施する。

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