埋蔵量は多いリチウム資源、需要に見合った現実的な供給は可能?:今こそ知りたい電池のあれこれ(14)(3/3 ページ)
環境影響を考える際のポイントの1つとして、今回は資源消費、特にリチウムイオン電池には欠かせない「リチウム」にまつわる問題に注目していきたいと思います。
リチウム資源採掘が環境に与える影響
しかし、技術的・商業的な問題だけではなく、環境的な問題についても、リチウム資源について語る上ではどうしても避けて通れないものとなっています。
例えば、かん水の産地である塩湖は世界的にも珍しい生態系を有している事例が多く、科学的に価値の高い希少な生物が生息する場所です。また、日本でも一時期SNSで話題になった「ウユニ塩湖」のように、その景観の美しさから観光資源としても知られる場所でもあります。その他にも、極端な乾燥地帯であるチリ北部にとって塩湖は現地住民が生活する上で不可欠な水源貯水池という側面もあり、塩湖でのリチウム採掘による水資源の不足や汚染といった非常にデリケートな問題があることも忘れてはいけない点かと思います。
ここ数回で解説している「LCA」の観点による環境影響も考慮すべきポイントの1つです。先述の通り、鉱石からの生産プロセスはかん水よりも複雑であるため、より多くのエネルギーを消費する傾向にあります。鉱山での採掘時や鉱石の輸送時の動力源やリチウム塩生成における焙焼時の熱源によるCO2排出をいかに削減していくかは今後の課題といえるでしょう。
度々の繰り返しになりますが、LCAで考慮すべき点はCO2だけではありません。その他の環境影響も考慮して進めていく必要があります。
鉱石からの生産プロセスには硫酸浸出工程があるため、硫酸塩が廃棄物として大量に発生します。また、先ほどもご紹介したように今後、製造プロセスの改善、開発が進むことで、これまで商業的に採算の取れなかったリチウム資源を扱えるようになる可能性があります。
現状、採算性が悪いリチウム資源の多くは、天然資源中のリチウム濃度の低さや含有不純物量の多さが課題であり、これが扱えるようになるということは生産量が拡大できる半面、不純物由来の廃棄物量も増大するという表裏一体の関係性があることは留意すべき点です。
リチウム資源の新たなリスク
さらに、ここ最近になり、リチウム資源の利用に関する新たなリスクが急浮上しました。エネルギーコンサルタントのRystad Energyの報告によると、欧州委員会(EC)は2022年内にもリチウムを生殖毒性物質に分類する可能性があるというのです。
欧州化学機関(ECHA)のリスク評価委員会(RAC)は「炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウムの3種のリチウム塩をカテゴリー1Aの生殖毒性物質として分類する」というフランスの提案に同意する旨を2021年末に発表しています(※2)。この分類によって直ちにリチウムの使用が停止するといったことはないでしょうが、EUのリチウムイオン電池製造やリサイクルに対するリスク管理や制約が強まり、さまざまな面でコストを押し上げる可能性があります。こちらの問題についても、今後の動向注視が必要かと思われます。
今回は環境影響を考える際のポイントの1つとして、リチウムイオン電池には欠かせない「リチウム資源」にまつわる問題をまとめてみました。
リチウムそのものの埋蔵量は多く、ちまたで心配されるほどの枯渇問題は生じない可能性が高い一方、商業面および環境面を考えたとき、現実的に供給可能であるのかは、今後も注視が必要であるといえるでしょう。希少なリチウム資源を有効活用するためにも、電池開発の円滑化といった形で貢献できるよう、日本カーリットの電池試験所、危険性評価試験所では、これからも電池評価に取り組んでまいります。
著者プロフィール
川邉裕(かわべ ゆう)
日本カーリット株式会社 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼日本カーリット
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▼安全性評価試験(電池)
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