リチウムイオン電池の再生材料をさらにもう1度リサイクル、ドイツが産学連携で研究:材料技術
フォルクスワーゲン(VW)は電動車の駆動用リチウムイオン電池を複数回リサイクルするプロジェクトを開始したと発表した。使用済みのバッテリーから回収した電極材料や電解質、黒鉛を適切に処理し、再びバッテリーで使用するのに適した品質を確保することで、クローズドループリサイクルを長期的に維持することを目指す。
フォルクスワーゲン(VW)は2022年6月8日(現地時間)、電動車の駆動用リチウムイオン電池を複数回リサイクルするプロジェクトを開始したと発表した。使用済みのバッテリーから回収した電極材料や電解質、黒鉛を適切に処理し、再びバッテリーで使用するのに適した品質を確保することで、クローズドループリサイクルを長期的に維持することを目指す。
VWグループ主導の下、JX金属グループのTANIOBISや、真空技術を手掛けるJ. Schmalz、電池向けにX線測定ソリューションを開発するViscom、アーヘン工科大学、ブラウンシュヴァイク工科大学、材料や表面処理、フィルム製造などを手掛けるフラウンホーファーIST(Institute for Surface Engineering and Thin Films)の研究者と協力して、3年間でリサイクルプロセスの研究開発を進める。ドイツ連邦の経済・気候保護省から資金提供を受ける。
TANIOBISは、湿式製錬プロセス用のニオブやタンタルを含む粉末材料のサプライヤーだ。リチウムイオン電池の湿式製錬リサイクルに関する知見も持つ。認定分析機関のChemiepark Okerの敷地内に湿式製錬と乾式製錬のインフラを設置する予定だ。
プロジェクトでは、機械的湿式製錬によるリサイクルに焦点を当てる。プロセスで使用するエネルギーが比較的少ない他、欧州でリサイクルプロセスを分散配置しやすいため、地域の循環型経済を促進できると見込む。重要な原材料を戦略的に確保できるため、欧州以外の地域への依存度が大幅に低減できるという。
プロジェクトを通じて経済効率の高いエンドツーエンドのバリューチェーンを確立するとともに、リサイクルとエネルギー効率を最大化して環境への影響を最小限に抑えたプロセスやソリューションに道筋をつける。
リサイクルするバッテリーシステムの放電と、セルや電極レベルの解体は高度に自動化する。活物質と箔状のキャリアをほぼ損失のない状態で分離するとともに、黒鉛や揮発性の電解質を回収する。
湿式製錬は、黒鉛と金属が含まれる「黒い塊(black mass)」を処理する。水および化学溶剤を使用して金属成分を溶かし、その溶液から早期かつ選択的にリチウムを採取する。そこに含まれている金属成分を、濃縮した混合水酸化物として浸出、沈殿して精製する方法に取り組む。このプロセスでは活物質の再生材料を合成するが、高性能な電極材料を完全に新しく製造するために、金属化合物の分離が必要かどうかも検証する。
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