埋蔵量は多いリチウム資源、需要に見合った現実的な供給は可能?:今こそ知りたい電池のあれこれ(14)(2/3 ページ)
環境影響を考える際のポイントの1つとして、今回は資源消費、特にリチウムイオン電池には欠かせない「リチウム」にまつわる問題に注目していきたいと思います。
鉱石からの生産とかん水からの生産にはそれぞれ異なる特徴があります。単純なコストメリットでは、かん水の方が優れています。鉱石からリチウムを取り出すためには、粉砕、加熱、焙焼、硫酸浸出、精製など多くの複雑な処理工程が必要であるのに対し、かん水からの処理は蒸発処理を基本とする単純な工程で済む場合が多く、蒸発率や不純物含有比率にはよるものの、かん水からの生産の方が安価になる傾向があります。
一方、鉱石からリチウムを生産する場合、工程数自体は多く複雑ではあるものの、蒸発を待たなければならないかん水よりも短時間で生産できる点がメリットです。また、近年は電池原料としてのリチウム消費が増えているため、生産物として取り出されるリチウム塩の需要が炭酸リチウムから水酸化リチウムへとシフトする傾向が出てきています。
かん水からの生産の場合、一度取り出した炭酸リチウムを水酸化リチウムへと変換する必要があるのに対し、鉱石の種類によっては直接水酸化リチウムの生産が可能であることも、鉱石から生産される事例が増えている要因といえます。
堆積岩は採算をとるのが難しい
先ほどご紹介したように、リチウム資源は鉱石やかん水だけではなく、堆積岩としても得ることができます。堆積岩の多くは、いわゆる「粘土」や「凝灰岩」といった形で存在し、鉱石よりも容易に微粒子へと分解できます。そのため、リチウム生産に必要な消費エネルギーは鉱石よりも少なくできる可能性がありますが、堆積岩中のリチウム濃度の低さや含有不純物量の多さが課題となり、商業的に採算をとることが難しいとされています。
テスラは2020年9月に開かれた電池開発進捗報告イベント「Battery day」において、米国ネバダ州で粘土状の堆積岩からリチウム原料を製造する方法の開発に取り組んでいると発表しました。
海水にもリチウム
地上に存在するリチウム資源は、これまでご紹介してきた鉱石、かん水、堆積岩の3種ですが、地球上にはまだそれ以上のリチウムが存在します。それは「海水」です。例えば、2014年には日本原子力研究開発機構が海水からのリチウムイオン抽出と発電を同時に行う技術を開発したと報告しています(※1)。
海水中のリチウム濃度は他の元素と比べて比較的高く、効率的な回収方法を開発することができれば、経済的に持続可能かつ事実上無尽蔵なリチウム生産が行える可能性があります。使用可能なリチウム資源量を増やすためには、今後ますますこういった取り組みが必要になっていくと考えられます。
鉱石やかん水からの生産といった既存プロセスの改善、堆積岩や海水からの生産といった新規プロセスの開発を進めることによって、今後のリチウムイオン電池へのニーズを満たすのに十分な量のリチウムを得ることが技術的には可能になるでしょう。需要が爆発的に増えれば短期的には価格高騰は免れないかと思いますが、長期的には新規プロセスの生産技術と採算性が向上することによって需給が調整されていく可能性は十分にあります。
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