DX推進には事業会社のIT人材強化が不可欠――日立造船:モノづくり最前線レポート
オンラインで開催された「ガートナー アプリケーション・イノベーション & ビジネス・ソリューション サミット」(2022年6月16〜17日)において、日立造船 常務執行役員 ICT推進本部長の橋爪宗信氏がゲスト基調講演に登壇、日本の事業会社におけるIT人材の強化を訴えた。
日立造船 常務執行役員 ICT推進本部長の橋爪宗信氏が、オンラインで開催された「ガートナー アプリケーション・イノベーション & ビジネス・ソリューション サミット」(2022年6月16〜17日)のゲスト基調講演に登壇し、同社におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた取り組みを紹介した。
1881年に設立された日立造船は現在、ごみ焼却発電施設や浮体式洋上風力発電、陸上養殖向け水処理施設、全固体電池などを手掛ける。2020年度の営業利益率は3.8%で、現在、収益力の強化を図っている。中期経営計画「Forward 22」では最終年度の2022年度に営業利益率5%以上、さらに長期ビジョン「Hitz 2030 Vision」では2030年度の営業利益率10%を目標としている。これらを達成するには、既存事業を従来通りのやり方で成長させるだけでは困難だ。
橋爪氏は「これまで日立造船はモノづくりとエンジニアリングが強みだった。そこにIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を組み込んで顧客、市場との対話を促進する。より付加価値の高いサービスを提供し、最終的にはDXも強みにして営業利益率10%を目指している」と語る。
3つのDXを推進
2021年には業務効率化や生産性向上による働き方改革を実現する「企業DX」、製品やサービスの付加価値向上を図る「事業DX」、それを推進する技術基盤となる「DX基盤」などを基本方針とした全社DX戦略を策定した。
企業DXに関しては、すでに2018年に基幹業務システムを従来製品からSAPのクラウドサービスを利用した「S/4 HANA」に刷新し、周辺システムも含めた業務システムの統合を図った。「受注前の引き合いからアフターサービスまで全てのプロセスの業務データが整合性を持った形で蓄積され、事業の見える化が進んできた」(橋爪氏)。
事業DXとしては2018年にHitz先端情報技術センター(A.I/TECH)を開設し、ごみ焼却発電施設など日立造船の直営施設を24時間遠隔監視している。AIを活用してごみの燃焼状態をチェックしている他、今後は自律クレーンによるごみの適切な攪拌やモバイル端末などを使ったごみ収集ルートの最適化なども予定されているという。
さらに、納入した製品、施設から送られてくるデータを蓄積し、分析、可視化するIoTセキュアプラットフォーム「EVOLIoT(エヴォリオット)」「EVOLIoT(エヴォリオット)」を内製した。日立造船の事業は多岐にわたる。事業部ごとにIT企業に発注するとコストが倍増してしまう。そこで、「ICT本部でほぼ全ての事業に使えるDX基盤をあらかじめ作って提供している」(橋爪氏)。
日本と欧米のIT人材の違い
講演で橋爪氏が強調したのは、日本における製造業などのITを専門に手掛けない事業会社のIT人材の弱さだ。
「欧米ではIT人材の7〜8割は事業会社にいる。残りの2〜3割がIT企業にいて、事業会社を支えたり、ソリューションを提供したりしている。日本ではその比率が逆転してしまう。事業会社にIT人材が少ない。これからはICTやデジタル技術をコアな強みにしないと生き残れない。“自分たちではできないからIT企業に発注するしかない”という現状は大問題だと気付く必要がある」(橋爪氏)。
だからこそEVOLIoTなどの内製化を進めた。「情報システム部門のスタッフをIT人材化ができれば、コスト削減効果が高い。彼らの市場価値も高まる。事業の基盤になるデジタル技術、ITはできるだけ自分たちで作ることが大事だ」(橋爪氏)
また、橋爪氏はD(How)よりもX(What)の方が難しいと説く。どのように(How)デジタルを取り入れるかだけでなく、何に(What)取り組むべきか考え出すことを重視する。そこで新たな人材育成の取り組みを2022年からスタートさせた。X(What)の創出加速に必要な人材輩出を目的に、将来を嘱望される課長クラスの人材から1期60人を選び、DXリーダーを育成する。橋爪氏は「顧客、社会、地球のニーズに向き合い、やるべきことを考え出すことができるリーダーを育てる。4年間で500人のDX人材の育成を計画している」と話す。
橋爪氏は1988年に日本電信電話に入社、同年に分社化されたNTTデータで約30年にわたりIT事業に携わり、2018年から日立造船でDXを推進している。
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