ゴキブリにも有効、成虫に注射するだけの昆虫ゲノム編集法を開発:医療技術ニュース
京都大学は、成虫に注射するだけでゲノム編集ができる、新たな昆虫ゲノム編集法「Direct Parental CRISPR(DIPA-CRISPR)」を開発した。従来法では不可能だったゴキブリに対しても、高効率なゲノム編集が可能になった。
京都大学は2022年5月18日、成虫に注射するだけでゲノム編集ができる、新たな昆虫ゲノム編集法「Direct Parental CRISPR(DIPA-CRISPR)」を開発したと発表した。これまで事実上不可能だったゴキブリに対しても、高効率なゲノム編集が可能になった。Institut de Biologia Evoltivaとの国際共同研究による成果だ。
今回の研究では、受精直後の卵(初期胚)への注射が難しく、従来のゲノム編集法を利用できないチャバネゴキブリを用いて、成虫注射によるゲノム編集を検証した。メスの成虫にゲノム編集ツールを注射し、その卵から孵化した幼虫を調べたところ、低頻度ながらゲノム編集されていることを確認した。
条件を検討してゲノム編集効率の最大化を試みたところ、注射した全てのメス成虫がゲノム編集個体を産み、幼虫の20%程度がゲノム編集個体となった。ゲノム編集した子同士を交配することで、遺伝子ノックアウトゴキブリの作成にも成功した。
次に、ゴキブリとは系統が離れるコクヌストモドキを用いて、ゴキブリ以外でもこの手法が適用できることを確認した。最適条件下では、生まれた子の半数以上がゲノム編集個体となり、より高度なゲノム編集である遺伝子ノックインも可能であることが示された。
注射する試薬の種類も検討したが、Cas9タンパク質とガイドRNAの2種類のみでゲノム編集できることが分かった。Cas9は市販されており、ガイドRNAも受託合成サービスがあるため、特別な準備を必要とせずに簡便にゲノム編集ができる。
DIPA-CRISPRでは、卵黄形成期のメス成虫にCas9とガイドRNAの複合体を注射すると、試薬の一部が卵母細胞に取り込まれる。それが卵核へ移行し、標的のゲノムを切断して編集する。従来のように、ゲノム編集ツールを受精直後の卵に注射する必要がなく、高価な実験機材や高度な実験技術も必要ないため、誰でも簡単に昆虫のゲノム編集が可能になる。
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