EVは環境に優しいのか、電池のライフサイクルでのCO2排出量を考えるポイント:今こそ知りたい電池のあれこれ(13)(3/3 ページ)
昨今、注目が集まっている地球温暖化問題や脱炭素への影響をLCAによって評価するためには「製品のライフサイクルで考えたときのCO2排出量」、すなわち「LC-CO2」について考える必要があります。そこで今回は電池におけるLC-CO2を考える上で注目すべきポイントを整理していきたいと思います。
電池のライフサイクルアセスメントは発展途上
ライフサイクル全体でのCO2排出を抑えるためには、製品使用時に電池を充電するための電力を担う電源構成や「リサイクル」「リユース」といった電池資源の有効活用も検討していく必要があるでしょう。
特に電池のリサイクルに関するLCA研究や排出量データ取得は、先進的なリサイクルプロセス自体がまだ開発中ということもあり、世界的にもあまり進んでいないのが現状かと思われます。
資源の有効活用という意味では有益なプロセスであるリサイクルですが、現在の一般的なリサイクル工程には高温での焼却処理が含まれるためCO2排出量の削減には大きく寄与しないという報告例もあります。リサイクルプロセスに事業として恒常的な採算性をもたせるためにも、CO2排出量の削減に寄与するためにも、できるだけ低コストかつ低温で処理することが可能な手法が求められています。
また、先述の通り、電池原料製造時の焼成や精錬といった工程におけるCO2排出が多いこともあり、リサイクルで回収した原料資源から電池原料を再製造するのではなく、電池にそのまま使用できる形の原料を回収する「ダイレクトリサイクル」といった手法の研究も進められています。
「CO2排出量」はLCAの1つの要素に過ぎない
前回解説したように「製品のライフサイクルで考えたときのCO2排出量」というのは、LCAの考え方でいえば地球温暖化への影響を評価するための一要素に過ぎません。
電池の原料には希少金属が使われることも多く、製造量が増えればそれらの資源消費量も増大します。電極乾燥工程で紹介したNMPは生態毒性を有することが知られており、電極乾燥によって揮発したNMPは製造設備からそのまま大気放出するのではなく大量の水へ吸収・回収させるのが一般的な処理方法です。
昨今は「脱炭素」に対する議論が注目されがちですが、LCAで評価できるその他の項目も含め、統合的に解釈したときの環境影響についても忘れることなく考えていくことが大切かと思います。
これまで、電池に関する環境影響を考える上で重要な「リサイクル」「リユース」「LCA」といった内容を取り上げてきました。それらはいずれもまだまだ検討するべき点は多々あるかと思いますが、間違いなく今後ますます注視すべき領域といえるでしょう。日本カーリットの電池試験所、危険性評価試験所でも、環境影響を考慮しつつ電池開発に貢献できるよう、これからも電池評価に取り組んでまいります。
著者プロフィール
川邉裕(かわべ ゆう)
日本カーリット株式会社 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼日本カーリット
http://www.carlit.co.jp/
▼電池試験所の特徴
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/
▼安全性評価試験(電池)
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/safety.html
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