勝ち残るためのCASEを超えて、社会コストを低減する「全体最適」への協力を:グリーンモビリティの本質(3)(3/3 ページ)
本章では、社会コストの低減に向けた全体最適の実現の考え方と最新トレンドの見立てを紹介する。
バッテリー交換対応型車両の導入が始まり、バッテリーメーカーや交換ステーション事業者、リユース・リサイクル事業者などが連携を進めて交換型バッテリーを軸とした座組が形成されている。その中で各プレイヤーは、複数のモビリティ向けのバッテリー交換サービスや中古のEVに対するバッテリーリースに加え、バッテリーをリサイクル、リユースすることで利益を拡大しようとしている。
さらに車両と電池の分離が進むことで、商材としてのバッテリーの重要度が増加しており、今後はバッテリーの規格標準化や、対応する交換ステーションの普及、バッテリーの長寿命化やリサイクルによる原材料回収などが競争力の源泉になるとみている。今後は、CATLやAultonなどの交換ステーションを提供している事業者を軸としながらバッテリー交換サービスが確立され、さらにリサイクル事業を押さえることで交換式バッテリーを介したエコシステムを構築することが勝ちパターンの1つになるのである。
その際にポイントとなるのが、この勝ちパターンの中に参画するプレイヤーがバッテリー規格などそれぞれ独自のフォーマットで事業を推進することに対する「標準化」である。現時点では、勝ちパターンを組成することが最優先事項であり、そのパターンの作り方には非効率性が残存している。しかし、圧倒的にスピードが担保されるというメリットがあるため、EVを軸に存在感を増したいプレイヤーにこの手法を止める理由はない。それも中国政府があえて介入しない理由の1つだ。
トライアルアンドエラーを急速に繰り返すことで市場に合致させていく作業は、勝ちパターンをはっきり区別していく上でヒト/モノ/カネを投入するに値する。その半面、市場撤退の決定が早く、撤退する企業も多いが、スピードが求められる競争環境においては、筋のいい全体最適解を絞り込む上で合理性があるといえる。
一方で、この例で言えば、2輪車、乗用車、商用車など自動車メーカー間でのバッテリー規格が異なり、“調整弁”を使いながらエコシステムを形成している点には明らかな無駄が存在する。従って、全体最適、つまり真の社会コスト低減の観点からは、今後、プレイヤー間/業界間の標準化を進めざるを得ないと予想する。中国政府もそのタイミングで、補助金やルール化などいわゆる口出し・後押しをするという予測が成り立つ。
また、この交換式バッテリーモデルにおいて注目すべきは、この勝ちパターンの主となるプレイヤーが必ずしも自動車メーカーではない点にもある。これはある意味、真の社会コスト低減を目指す上で適切なアプローチとも考えられる。なぜなら、「クルマをいかに活用するか?」という視点ではなく、「社会や地球に必要なものは何か?」という考えから始まり、その「必要なもの」として価値提供するために、クルマが合わせる形になっているからだ。意図的かどうかは別にして、自動車先進国のエコシステム構想では発想されにくいアプローチであるといえる。学ぶところは多いにある。
次回は、パワートレインを含むコアアセットの活用の観点で、勝ち残るための先進技術戦略とは何かについてお伝えしたい。
著者プロフィール
早瀬慶
(EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 自動車・モビリティ・運輸・航空宇宙・製造・化学セクターコンサルティングリーダー)
スタートアップや複数の外資系コンサルティング会社での経験を経て、EYに参画。自動車業界を中心に20年以上にわたり、経営戦略策定、事業構想、マーケット分析、将来動向予測等に従事。
EYではAMM商用車チームリーダーとして商用車・物流業界を軸としたBtoB、BtoBtoCに関するコンサルティングサービスを提供すると同時に、産業の枠組みを超えたモビリティ社会の構築支援に注力。
近年は経済産業省、国交省、内閣府、東京都をはじめとする官公庁の商用車・モビリティ領域のアドバイザーを務めるとともに、スマートシティー等の国際会議のプレゼンター・プランナーとして社会創生にも携わる。
世界70カ国以上においてコンサルティングの経験を持つ。
主な著書に『モビリティー革命2030』(日経BP、2016年、共著)。他寄稿、講演多数。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 電動スクーターを“普通に”使えるように、台湾二輪車メーカーはインフラ計画も描く
日本では現在、クルマの世界ではハイブリッド車の存在感が増し、少しずつ電動化の流れが強まってきていることを実感している人は多いはず。しかし2輪では、台湾が日本のはるか先を行く。そんな思いを抱かせる新型スクーターが登場した。 - ホンダがインドで電動三輪タクシー、エンジン車より安く、走行距離は気にならない
ホンダは2021年10月29日、2022年前半からインドで電動三輪タクシー(リキシャ)向けにバッテリーシェアリングサービスを開始すると発表した。 - 日本でも電動バイクがバッテリー交換式で利用可能に、二輪4社とENEOSで新会社
ENEOSホールディングスとホンダ、カワサキモータース、スズキ、ヤマハ発動機は2022年3月30日、オンラインで会見を開き、電動バイク向けのバッテリーシェアリングサービスとインフラ整備を手掛ける新会社を設立すると発表した。 - ボッシュと三菱商事がバッテリー交換式EVの“状態見える化”、中国で商用車向け
Robert Bosch(ボッシュ)と三菱商事、北京汽車グループのBlue Park Smart Energy Technologyは2022年3月4日、EV(電気自動車)向け電池サービス事業を共同で開発すると発表した。中国の実証実験をベースに、他の国にも成果の展開を検討する。 - 欧州でもEVバイクの交換式バッテリーを標準化へ、ホンダとヤマ発など4社が協業
ホンダ、ヤマハ発動機、オーストリアのKTM、イタリアのピアッジオ(Piaggio & C)の二輪車メーカー4社は、電動二輪車(EVバイク)や、欧州連合(EU)のUNECE規格に基づく車両区分でLカテゴリーに属する小型電動モビリティの普及を目的とした交換式バッテリーコンソーシアムの創設に合意した。 - 単なる「EVシフト」「脱エンジン」ではない、なぜ「グリーンモビリティ」なのか
Beyond CASEの世界においては「自社だけが勝てばよい」という視野や戦略ではなく、「企業の社会的責任」を果たす覚悟を持って“社会平和”を実現していくことがポイントになる。この中心となる概念であるグリーンモビリティの定義と必要性を本章で論じたい。 - 自動車「B2B時代」の本格到来、CASEの再定義が必要だ
本連載では、ここ数年自動車産業をけん引してきた「CASE」を将来型の「Beyond CASE」として再定義するとともに、近視眼的になりがちな脱ICE(内燃機関)やテクノロジー活用の本質をグリーンモビリティの観点から全12回で解説する。