この素晴らしいDXセキュリティに祝福を!:事例で学ぶ製造業DXセキュリティ対策入門(8)(4/4 ページ)
社内DXセキュリティプロジェクトチームのリーダーに任命された、ABC化学薬品新卒6年目の青井葵。元工場長の変わり者、古井課長の手助けも得て、製造業がDXプロジェクトと併せて進めるべき「DXセキュリティ対策」を推進していく本連載。最終回となる今回は、工場セキュリティとIoT農薬散布ドローンのセキュリティという2つのプロジェクトを通じてDXセキュリティの勘所を探る。
国内最高のDXセキュリティ担当者、海外拠点に出向する
そういえば、実はこれからが本題なんだけど、さっきの異世界ラノベのパーティーの例えでね。あれは多様性が大事だってことだよね。
はい、そうです。まあ課長が魔物なのは余計でしたが。
その多様性っていうのは、お互いの違いを乗り越えて同じ方向性で皆が努力することで価値を生んでいくわけだから、違いが大きいと難度は上がるわけだよね。
そうですね。まあラノベの場合は、個性を立てるためにわざと違いを大きくすることも多いですが。一つの魔法しか使えないとか、見た目優秀そうなのに剣が全然当たらないとか、私はそういう極端なのも好きですけどね。
急に課長が満面の笑みになる。なんだ、このゾワっとする感触は。
そうかそうか、やっぱりそうだと思ったんだよね。
はい?
でね、そんな異世界ラノベ好きの青井さんに朗報なんだけど、実は、青井さんには、来年度、わが社の東南アジア拠点のDXセキュリティ強化で現地出向してもらうことになったんだ。
えーーーーーー!
青井
まさかの海外出向! 東南アジアは旅行で行ったことあるけど、住むイメージがわかない。でも、ちょっと楽しそう……。
やっぱり、この異世界プロジェクトのリーダーは青井さんしかいないね。既にDXセキュリティの実績もあるし、しかも極端なのが好きなんてこれ以上の適任はいないな。
しかし、そんな重要プロジェクト、英語もまともにできない私がやってもいいのでしょうか。
いや英語はなんとかなるよ。ご存じの通り、わが社の東南アジア拠点はシンガポールとマレーシアなんだけど、基本シンガポールに住んでもらって、適宜マレーシアに出張してもらう感じかな。シンガポールは日本食もけっこうあるし。
あんま話聞いてないな……。英語と日本食は関係ない気がするのだけど。
どうして私なんでしょうか。まだ国内プロジェクトも終わったわけじゃないのに。
実は、先日の経営会議で、最近の他社のサイバー攻撃被害の事例から、海外拠点のセキュリティ対策が急務となってね。それで、国内はうまくいってるという話で、青井さんに白羽の矢が立ったと。で、念のため青井さんの意向も聞こうというので私に話があったんだ。
海外出向は、大変興味があるので、ぜひ前向きに考えたいと思います。
よかったよかった。黒川社長も喜ぶよ。青井さんの今後のキャリアパスを考えても、今のうちに海外経験をしておくのは良いことだと思うしね。ぜひ、東南アジアでも、大きな「共振」を起こしてきてください。
はい、貴重な機会をありがとうございます!
つい1年前までは、社内のセキュリティ問い合わせ担当だった私が、突然社長に呼ばれて、DXセキュリティプロジェクトのリーダーになって、次は海外出向しようとしてるなんて信じられないな。セキュリティってあまり評価されないし、面倒な仕事で、最初は不安でいっぱいだった。でも、困難を乗り越える過程で、私の世界が広がって、異文化をもつ仲間と同じ目標に進んでいる現状を、なんだかんだで、私は結構気に入っているんだ。そう、まさに「この素晴らしいDXセキュリティに祝福を!」
(連載完)
参考資料)古井課長からセキュリティ担当者に送る教訓集
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筆者プロフィール
佐々木 弘志(ささき ひろし)
国内製造企業の制御システム機器の開発者として14年間従事した後、セキュリティベンダーに転職。制御システム開発の経験をもつセキュリティ専門家として、産業サイバーセキュリティの文化醸成(ビジネス化)をめざし、国内外の講演、執筆などの啓発やソリューション提案などのビジネス活動を行っている。CISSP認定保持者。
2021年8月〜現在:フォーティネットジャパン株式会社 OTビジネス開発部 部長
2012年12月〜2021年7月:マカフィー株式会社 サイバー戦略室 シニア・セキュリティ・アドバイザー
2017年7月〜現在:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)産業サイバーセキュリティセンター(ICSCoE)専門委員(非常勤)
2016年5月〜2020年12月、2021年7月〜現在:経済産業省 商務情報政策局 情報セキュリティ対策専門官(非常勤)
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