パナソニックが新体制で進める原点回帰、スローガンに込めた創業者の90年前の思い:製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)
パナソニックグループは2022年4月1日から事業会社制(持ち株会社制)へと移行し、新たな中期経営計画を発表した。これらの新体制への移行を進め、CEO就任から1年がたったパナソニック ホールディングス 代表取締役 社長執行役員 グループCEOの楠見雄規氏が報道陣の合同インタビューに応じ、これまでの取り組みの手応えと新スローガンの狙い、中期経営計画のポイントなどについて語った。
車載電池の大型投資は液晶パネルの二の舞にはならない
楠見氏と報道陣による主な一問一答は以下の通り。
―― パナソニック ホールディングスとして成長領域への戦略投資4000億円を用意し、その1つに車載電池領域を挙げている。過去には液晶パネルへの大型投資で苦しんだこともあったが、車載電池領域はその二の舞にはならないか。
楠見氏 液晶パネルと車載電池では装置型の製造プロセスで大型投資が必要になることは変わらないが、少し違うのは、電池は内部のケミカルの進化で製造設備投資なしでも進化できるという点だ。電池の形状が変われば新たな製造設備が必要になるが、そうでなければ同じ製造設備で性能を上げていくことができる。液晶パネルは世代が進めば設備を全て入れ替える必要があり、その度に大規模な投資が必要になるリスクがあった。その点が異なっている。
そして、パナソニックはこの電池のケミカルの進化については強みがある。一方で生産設備などの生産性の進化については後手に回っていた。これを徹底的に強化し生産設備における生産性を速いタイミングで高める。設備の可動率や品質を高め、競争力をつけていくことが何より重要だと考えている。自動車の電動化は液晶パネルの普及スピード以上の速さで進むと見ているので、競争力があれば利益は十分に出せる。市場環境を見ながら競争力が十分かどうかを見極めながら投資を進めていく。
―― 台湾の鴻海精密工業やソニーのように、EV(電気自動車)を直接手掛けるような考えはあるのか。
楠見氏 パナソニックグループとしては、今クルマそのものを作ることに打って出るよりは新たな車室内空間や、電動化を支えるデバイスなど、貢献できるところは多く残されていると考えている。今もティア1サプライヤーとして直接自動車メーカーと取引がある中で、直接自動車を手掛けるメリットはあまりない。
削減貢献量の目標数値を先行して示す意味
―― 新たに長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」の定量的目標として、2050年までに全世界のCO2排出量の約1%に当たる3億トン以上の削減インパクトを生み出すということを発表した。自社の削減以外のところを定量的に測定するのは難しいが、どういうアプローチで進めていくのか。
楠見氏 今回新たに自社バリューチェーンでの削減インパクト1.1億トンの他、既存事業による削減インパクト1億トン、新技術や新技術による削減インパクト1億トンという目標を示し、これにより社会全体で3億トン以上のCO2排出量の削減を目指すことを発表した。この削減貢献量のような考えは規格化されているものではなく、国や業界などの動きも見据えつつ、こうした基準を生み出すような取り組みに今後参画していく。
ただ、今回こうした道筋が見えていない中でもあえて数値目標を置いたのは、グローバルでカーボンニュートラル化への取り組みが加速する中で、従来の枠組みだけでよいのかという思いがあったからだ。パナソニック グループとしては、既に2021年5月の発表で、2030年までに全事業会社でCO2排出量の実質ゼロ化を宣言している。しかし、地球温暖化対策の動きがさらに加速する中で、使われる電力の多くが再生可能エネルギーになる可能性も生まれてきている。そうなると、労せずにCO2排出量の実質ゼロ化ができてしまうかもしれない。企業としてはそれでよいかもしれないが、本当に社会全体のことを考えるとさらにできることを探すべきだと考えた。次の世代に豊かな地球を残していくためには前倒してより幅広い範囲で貢献できるように目標を設定した。
―― 具体的に削減貢献量の算出についてはどういうところが課題になっているのか。
楠見氏 例えば、電池を作って自動車メーカーに納品した場合、電池としてのCO2排出量は自社内の話なので出せるが、納入後に自動車が排出するCO2排出量の内、電池はどのような影響度でどのような割合で計算すべきなのかは明確な基準がない。こうした削減貢献量の規格化なども含めて話し合っていく必要がある。こうした基準がないままに目標数値を出してよいのかという議論は社内でもあったが、より前に進めるために先に示した。
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