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TSNを構成する「時刻同期」と「時分割」とはいまさら聞けないTSN(後編)(2/2 ページ)

産業用ネットワークで今大きな注目を集めているのが「TSN」という規格です。本稿では前後編に分けて「TSN」とは何かについて紹介しています。後編ではTSNを構成する規格とその機能について紹介します。

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1つの回線を時刻によって分けて共有できるIEEE 802.1Qbv

 TSNのキーとなるもう一つの規格として、時分割方式を定義するIEEE 802.1Qbvが挙げられます。IEEE 802.1Qbvは先に挙げた4つのカテゴリーのうち「Latency(遅延)」に属し、レイヤー2上のスケジュールトラフィックの強化について規定しています。

 IEEE 802.1Qbvの具体的な内容について触れる前に、既存のQoS(Quality of Service)の問題点を見てみましょう。既存のイーサネットでもフレーム(通信データ)にプライオリティ(優先度)の情報を付加し、レイヤー2のスイッチングハブで各フレームのプライオリティの値に準じて通信の優先制御を実施することは可能です。しかし、これはあくまでもフレーム送信順の優先制御であり、スイッチングハブをまたいだノード間の特定の通信について、一定時間以内に届くことを保証できるものではありません。大量の通信がスイッチングハブに流入すれば、プライオリティの高い通信であっても遅延がどの程度まで発生するかは正確には予測できません。重み付けや均等化などキューイングの手法はさまざまありますが、この原則からは逃れられません。

 一方、IEEE 802.1Qbvでは、特定の通信についてこのような遅延を一定時間内に制限することを可能にしています。これにより、産業用制御アプリケーションに求められる通信品質の信頼性と一定時間以内の遅延時間の担保を実現できるというわけです。

 IEEE 802.1Qbvの基本コンセプトは既存のキューイングの仕組みに対する保護ウィンドウ(Protected window)の追加です。キューイングによる優先制御に加えて、特定のキューの通信のみが一定時間スイッチングハブを通過できるよう指定する保護ウィンドウの仕組みを取り入れることで、定時性を有した通信を実現しています。

 具体的には、ゲートコントロールリスト(Gate control list)という仕組みを利用します。ゲートコントロールリストは複数のタイムスロット(Time slot)によって構成されており、各タイムスロットは通信を許可する時間の長さの情報と、どのキューの通信を許可するかという8段階のキューの情報を保持しています。

 このキューは既存のQoSでも利用されているVLANタグ内の3ビットのPCP(Priority Code Point)にひも付いており、7が最もプライオリティが高く、0に向かうにつれて低くなります。各タイムスロットで指定された時間の間は、対応するキューの通信のみがスイッチングハブを通過できます。各タイムスロットの時間が一巡すると、また最初のタイムスロットが開始されます。このような仕組みにより、IEEE 802.1ASで時刻が同期されているTSN対応機器は「今はこのタイムスロットの時間だから、このキューの通信は一定時間内に対向ノードに届くはず」といった具体的な遅延の予測ができるようになります。これが標準イーサネット上で定時性を有した通信を実現するIEEE 802.1Qbvの概要となります。

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ゲートコントロールリスト[クリックで拡大] 出所:MOXA

 この特性を活用した具体的な例を見てみましょう。詳しくは下図を見ていただきたいのですが、スイッチングハブ上のゲートコントロールリストで3つのタイムスロットTO0、T01、T02を作成し、T00は500マイクロ秒でキュー7の通信を、T01は200マイクロ秒でキュー6の通信を、T02は300マイクロ秒でキュー0の通信を、それぞれ許可したとします。T00、T01、T02の時間を合計すると1000マイクロ秒=1ミリ秒となり、これがタイムスロットが一巡するサイクルタイムとなります。

 この状況でクリティカルな制御通信にはキュー7を、時刻同期通信にはキュー6を、それ以外のノンクリティカルなTCP/IP通信にはキュー0を割り当てたとすると、1ミリ秒のうち500マイクロ秒は制御通信専用の時間となるため、スイッチングハブをまたいだノード間の定時性を有した通信を実現できるというわけです。つまり、定時性が必要になる制御信号は遅延を担保した形で通信でき、遅延が許容できる通信は優先度を下げることが可能だということです。

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タイムスロットによる各キューの通信可否の制御[クリックで拡大] 出所:MOXA

TSN導入における注意点

 さて、最後にTSN導入の際の注意点をお伝えしたいと思います。それは、TSNの機能を利用するためにはTSN対応機器でネットワークを構築する必要があるということです。「何を当たり前のことを」と思われるかもしれませんが、この認識を強く持っていないと、適切に機器を選定することができない可能性があります。

 TSNは「標準イーサネット上で定時性を有した通信を実現する」と紹介される場合も多いですが、それは従来のイーサネット対応機器(PLCやスイッチングハブなど)がそのまま利用できるということを意味していません。PLCやリモートI/Oといった制御機器が先に述べたようなIEEE 802.1ASやIEEE 802.1Qbvに対応している必要があるのはもちろん、それらを接続するスイッチングハブも同様にTSNの機能に対応している必要があります。PLCやリモートI/OだけTSN対応のものを用意しても、それらを接続するスイッチングハブがTSN非対応であれば、そのネットワーク上でTSNの機能は利用できません。ここを意識せずにTSNシステムの機器選定においてTSN非対応のスイッチングハブを選定してしまっているケースも見られます。そういう意味では、TSN活用を進める場合、将来の工場内でのネットワーク構成を見極め、計画的に対応を進めていく必要があるといえるでしょう。

 本稿は以上となりますが、いかがでしたでしょうか。本稿がみなさまのTSNに対する理解を深める一助となれば幸いです。

≫連載「いまさら聞けないTSN」の目次

筆者紹介

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塙 祐史(はなわ ゆうじ)
MOXA Japan フィールドアプリケーションエンジニア

ネットワークインテグレーターやITベンチャーでのSE業務を経て、インダストリー4.0への興味から2019年にMoxa Inc.に入社。現在はMoxa Japan合同会社にて主にファクトリーオートメーション、IIoT、産業向けサイバーセキュリティ分野のプリセールスエンジニアを担当。ネットワークスペシャリスト。情報処理安全確保支援士合格。


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