未経験の設備異常も予兆検知可能なAIシステム、顧客自身での再学習も可能:製造現場向けAI技術
大阪ガスは2022年3月8日、宇部情報システムと共同で、過去に経験がない異常でも早期検知が可能なAIシステムを開発したことを発表した。
大阪ガスは2022年3月8日、宇部情報システムと共同で、過去に経験がない異常でも早期検知が可能なAI(人工知能)システムを開発したことを発表した。宇部情報システムは同年4月1日から、製造業の各種機械装置や反応装置に合わせ、今回発表のAIシステム構築を実現するサービス「SAILESS(仮称)」を提供開始する。
従来、AIによる異常予兆検知は過去のトラブル発生時のデータを学習させることで予兆検知を行うことが一般的だった。一方で、今回発表のAIシステムでは、AIに正常時の製造運転データを学習させることで、正常の範囲から逸脱したデータを発見し、過去に経験のない異常でも予兆検知が行えるようにする。
リアルタイムで製造運転データの状態や傾向を監視して、異常予兆を検知する。あらかじめ上下限の管理値を定め、その範囲から逸脱した際に通知を行う仕組みでは検知の難しい異常予兆を見つけ、装置の緊急停止などによる損失を未然に回避する。事後保全や時間基準保全を計画的な状態基準保全にすることで、保全業務の効率化や保全費用の削減を実現する。
大阪ガスリキッドでは2020年4月から、高性能な触媒技術を活用して都市ガスから高純度の水素を製造する装置「HYSERVE」において、今回発表したAIシステムによる異常予兆検知の仕組みを導入しているという。
また、今回のAIシステムは、顧客自身が新しい正常時の製造データを入力すれば再学習を行える仕組みになっている。従来は装置のオーバーホール作業への対応や、AIモデルの精度低下防止のために、システムエンジニアが最新データでAIモデルを再学習させる必要があったが、これを不要化してコスト削減と迅速なシステム更新を実現する。
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