正常データだけで学習する異常検知AIに新手法、半導体ウェーハで検知精度90%超も:製造現場向けAI技術
東芝が製品の外観画像から製造状態の異常を検知するAI技術について世界トップレベルの検知性能を達成したと発表。公開データを用いた際の検知精度で従来手法の69.5%から79.1%に向上したという。これにより、製造現場で収集が困難な異常データを使用することなく、正常データを用いて学習を行ったAIで高精度の異常検知を行えるようになる。
東芝は2020年12月14日、製品の外観画像から製造状態の異常を検知するAI(人工知能)技術について世界トップレベルの検知性能を達成したと発表した。公開データであるMNISTを用いた際の検知精度で従来手法の69.5%から79.1%に向上したという。これにより、製造現場で収集が困難な異常データを使用することなく、正常データを用いて学習を行ったAIで高精度の異常検知を行えるようになる。2021年度から東芝デバイス&ストレージ傘下の半導体工場の画像検査工程に適用するとともに、その実績を基に東芝デジタルソリューションズの製造業向けソリューション「Meisterシリーズ」に展開していく方針だ。
製造業のAI活用で最も取り組みが進んでいる分野の一つが、工場における製品の外観画像を用いた異常検知である。一般的な機械学習の手法では、検知対象となる異常のある製品のデータ(異常データ)を多数収集する必要があるが、実際の製造現場では製品の異常の発生頻度が低く異常データの収集が困難なことが多い。このため、正常データだけを使って機械学習を行うことが求められている。
代表的なものとしては、基準となる正常データとの差分を検知する手法が知られている。この手法は、ボルトやナットのように部品を固定の画角、構図で撮影できる場合には有効だが、回路を形成した半導体ウェーハなどのように、検査対象の外観が撮影した部位や製品の種類によって異なる場合には、基準となる正常データを準備することができず、適用が困難になる。
こういった状況に対応する深層学習を用いた技術として、正常データのみから「正常データらしさ」を学習するAIを使用する手法がある。この手法では、画像データから画像の特徴を潜在変数に数値化(符号化)し、それを再度画像データに復元する。正常データのみを用いて学習したAIでは異常データは正しく復元できないので、入力時と復元時の画像データの差から、撮影した部位や製品の種類によって状況が異なる場合でも異常検知につなげられる。ただし、類似した画像同士を誤った潜在変数に対応づけて学習してしまうことがあり、正常データを正確に復元できないことで十分な検知精度を出せないという課題があった。
今回東芝が開発したAI技術はこの課題を解決するものだ。正常な画像データの復元性能を大幅に改善する独自の「dual-encoder BiGAN手法」を用いた深層学習AIを開発することで、潜在変数から復元された画像データを再度潜在変数に数値化(再符号化)し、2つの潜在変数が一致するような制約を課して学習を行えるようにした。従来行っていた、入力時と復元時の画像データの比較をより厳密にするとともに、潜在変数の比較も行うことで、撮影した部位や製品の種類によって状況が異なる場合でもより高い精度で画像を復元させ、高精度に異常を検知することに成功したという。
実際に、0〜9の手書き数字画像の公開データセットであるMNISTを用いて異常検知を実施したところ、検知精度が従来手法の69.5%から79.1%に改善した。さらに、東芝社内の半導体製造工場で収集した半導体ウェーハの検査画像についても、従来手法の50.5%から91.6%に検知性能が向上したという。
なお、新技術の詳細は、2020年12月14〜17日にオンラインで開催される機械学習の国際会議「第19回ICMLA2020(19th IEEE international Conference on Machine Learning and Applications)」で発表される予定だ。
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