5G基地局のCO2排出量を半減、富士通がソフト仮想化やデジタルアニーラで実現:脱炭素
富士通は5G SA方式に対応する仮想化基地局を新たに開発。2022年3月から通信事業者向けに検証用としての提供を開始する。従来の仮想化基地局で課題になっていた通信性能を向上するとともに、新たに開発したオートセルリプランニング技術とダイナミックリソースアロケーション技術により消費電力の大幅な削減を実現したという。
富士通は2022年2月24日、オンラインで会見を開き、5G SA(Stand-Alone)方式に対応する、ソフトウェアにより仮想化した基地局(以下、仮想化基地局)を新たに開発し、同年3月から通信事業者向けに検証用としての提供を開始すると発表した。従来の仮想化基地局で課題になっていた通信性能を向上するとともに、新たに開発したオートセルリプランニング技術とダイナミックリソースアロケーション技術により消費電力の大幅な削減を実現したという。2022年度中には、各通信事業者の商用サービス網における新開発の仮想化基地局の展開に向けたグローバル提供を開始し、2025年度には同社基地局システムを採用する通信事業者の数を10社以上に増やしたい考え。
新開発の仮想化基地局は、5Gの商用サービスが始まってから市場が拡大しているオープンな無線アクセスネットワークの仕様であるO-RAN(Open RAN)に準拠している。富士通は、O-RANの策定団体O-RAN ALLIANCEに加盟しており、積極的な製品開発を進めている。同社 執行役員常務 システムプラットフォームビジネス部門副部門長 ネットワークビジネス担当の水野晋吾氏は「2025年にはRAN市場全体の20〜30%がオープン化する。O-RANの普及による基地局市場の構造変化に即して、富士通の持つさまざまな技術を組み合わせて仮想化基地局を展開していく」と語る。
今回発表した仮想化基地局の特徴は3つある。1つ目は、高性能、高キャパシティーを実現するGPUを用いたアクセラレーターカードと、そのアクセラレーターカードに組み込む独自カスタマイズを施したソフトウェアだ。基地局ハードウェア(CU/DU)として用いられる汎用サーバのCPUはネットワーク信号の高速演算処理を苦手としているが、それらの処理をアクセラレーターカードにオフロードできる構成とした。さらに、アクセラレーターカードに搭載するソフトウェアについて「これまでの知見を基に独自カスタマイズを施すことで、GPUベンダーの標準ソフトウェアを上回る高速化が可能になった」(富士通 理事 モバイルシステム事業本部長の谷口正樹氏)という。これらの結果、無線機(RU)の収容率を2倍から4倍に向上することができた。
2つ目のオートセルリプランニング技術と、3つ目のダイナミックリソースアロケーション技術では、仮想化基地局に用いるサーバ設備の演算リソースを最適に配分することで消費電力の削減につなげられる。オートセルリプランニング技術は、AI(人工知能)によって将来の通信量の変動を予測するとともに、組み合わせ最適化問題に特化した「デジタルアニーラ」を用いて、多数の基地局の電波が重なる環境下でのRUとCU/DUの組み合わせの中から最適な接続先を導き出す問題を高速に解くことができる。一方、ダイナミックリソースアロケーション技術は、地域や時間帯によって変化する基地局の利用状況(通信量)に応じて、運用に必要なサーバの演算リソースの柔軟な変更が可能になる。RANインテリジェント制御部(RIC)やネットワーク全体のオーケストレーションと管理を行うSMO(Service Management and Orchestration)と連携させることにより、携帯電話利用者の移動やアプリケーションの利用状況を推定し最適なリソース配置を実現できるという。
これら3つの特徴を組み合わせることで、新開発の仮想化基地局を用いた移動体通信システム全体でのCO2排出量を大幅に削減できる。富士通としては2025年までに、従来の無線基地局を用いたシステムと比べて50%以上の削減を目標としている。
富士通のO-RAN市場における実績は、これまでに通信事業者2社が採用しており、3社が評価/検証の段階にある。今後は、新開発の仮想化基地局の投入によって事業を拡大し、2025年までに自社展開による採用を8社に増やすとともに、エコシステムパートナーとの協業で数社を追加して、採用社数を10社以上に伸ばしたい考えだ。
また、新開発の仮想化基地局はまずは通信事業者に展開するものの、市場需要を見ながらローカル5G向けへの展開も検討していく。なお、新開発の仮想化基地局をはじめとする富士通の5G関連の取り組みは、スペインのバルセロナで開催される「MWC Barcelona 2022」(2022年2月28日〜3月3日)に出展する予定だ。
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