1Dモデリングの方法にもさまざまなアプローチがある:1Dモデリングの勘所(4)(3/3 ページ)
「1Dモデリング」に関する連載。連載第4回では、本題である1Dモデリングの方法を取り上げる。まず、1Dモデリングの方法には大きく「モデル生成」「低次元化モデリング」「類推モデリング」の3つのアプローチがあることを説明。特に本稿では1Dモデリング固有の考え方としての類推モデリングについて詳しく解説する。
理論に基づくモデル生成
理論に基づいてモデリングする際には、最初に対象とする現象を理解した上で定式化する。この際にも、類推モデリングで紹介した常微分方程式の形式での表現が参考になる。
図10にさまざまな現象の常微分方程式表現を示す。各式の説明については今後の連載の中で触れるとし、まずは“方程式の形”に注目いただきたい。このように、種々の現象が同じ形式で表現されていることは、1Dモデリングにおいて強い味方である。ただ、よく見ると伝熱の式には他の式に存在する最初の項が欠落している。本当に存在しないのか、単に見落としているだけなのか、興味は尽きない。このように、1Dモデリングはある意味“創造的なモデリング”ともいえる。
伝熱の問題を例に、現象の理解、定式化、理論解の一連のプロセスを説明する。図11に対象とする伝熱現象を示す。左側に100℃の物体、右側に0℃の物体があり、両者を熱伝導体(熱容量は無視する)で接続した後の、各物体の温度、流出入する熱量の時間変化を求めることにする。この際、図10の方程式を用いる。
左の物体からは熱量Qが流出し、温度は低下する。右の物体は熱量Qが流入し、温度は上昇する。熱量Qは熱伝導体を左から右に移動する。左右の物体に関する式と熱伝導体の式の計3つの式が導出できる。知りたいのは、左の物体の温度T1、右の物体の温度T2、流出入する熱量Qの3つなので、方程式の数と一致する。
図12に図11の伝熱現象の理論的解法を示す。ここで、左右の物体の熱容量はそれぞれ15、熱伝導体の熱コンダクタンスは10とした。導出した理論式を示すとともに、結果をグラフで表現した。5秒ほどで左右の物体の温度は同じ50℃になり、熱量も最初の1000[W]から順次低下し、両者の物体が温度平衡に達した5秒後にはゼロとなる。
低次元化モデリング
低次元化モデリングにはさまざまな方法があるが、図13に示すように大きく2つの方法に分けられる。最初の方法は、3Dモデルを1Dに縮退する方法である。図13上図には建物の振動応答モデルの1Dモデリング方法の概念を示す。低次モードだけ知りたい場合には一自由度系のモデルに、高層ビルのように多くのモードが関係する場合には多自由度系のモデルに縮退する。縮退も3D-CAEのモード解析結果を利用する方法や、図のように直接等価剛性、等価質量を求める方法などさまざまある。
一方、図13下図に示すような複雑な現象の場合には、理論を参考にしながら実験などで現象を理解し、現象の特性を表現するパラメータを抽出して、応答曲面などで表現する。最近は、実験の代替として3D-CAEが活用されている。また、特性式の抽出にディープラーニングなどのAI(人工知能)技術の適用も可能になりつつある。
次回は、類推モデリングの発展形である「熱回路網モデリング」「流体回路網モデリング」について取り上げる。 (次回へ続く)
筆者プロフィール:
大富浩一(https://1dcae.jp/profile/)
日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。1Dモデリングはその活動の一つである。
- 研究会HP:https://1dcae.jp/
- 代表者アドレス:ohtomi@1dcae.jp
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