水上太陽光発電への挑戦、常識を打ち破るフロート構造はこうして生まれた:デザインの力(4/4 ページ)
湖や貯水池などで展開が進む「水上太陽光発電」。市場は欧州企業による一社寡占状態だが、日本国内でも水上太陽光発電用フロートの開発が加速している。本稿では、大手ゼネコンからの依頼を受け、これまでにないフロート構造を考案したエンジニアたちの挑戦の記録をお届けする。
シミュレーションよりも厳しい条件で行われた実機評価
水上太陽光発電フロート開発は「製造コスト削減」「組み立ての合理化」「環境影響低減による安定性向上」といった依頼主からの要求に応えると同時に、強度や耐用年数についても「フロートが自然環境の中で20年間、年2回の大型台風を耐え抜く力を想定した」(柳澤氏)と厳しい条件をクリアする必要があった。
プロジェクト終盤に行われた実機による評価試験では、柳澤氏が「空気をパンパンに入れた大きなポリ袋を、ケプラー製ロープを使って4tの力でガンガン引っ張るようなもの」と表現するように、かなり大掛かりな内容となった。実際、「水上太陽光発電フロートという標準規格が存在しない、大きな構造物を試験できる設備を探すのにとても苦労した」(柳澤氏)という。
今回開発したフロートのサイズで、何tもの力をかけ続けることができる実験設備をようやく探し出すも、やはり規格化されていないため、実験基準もない。そこで、仕方なく橋脚や鉄工所向けの大型機械などで用いられる引っ張り試験の検査項目を参考に実施。その際に用いられる治具なども専用設計して用意した。
経験のないほどスケールの大きな実験は、思わず笑ってしまうほどダイナミックだったというが、「この時ばかりは本当に怖かった……。すぐに壊れてしまったらどうしようと思った」と内心ヒヤヒヤしていたと柳澤氏と水野氏は振り返る。
ゼネコンである依頼主が求める要求もシビアで、シミュレーションではフロートが動く状況を加味していたが、実験では完全にフロートが固定された状態で行われたと。だが、そんな心配とは裏腹に、実験は見事に成功。フロートが破損することはなかったという。
そして、厳しい実機評価をクリアした後、フロートは晴れて量産開始され、市場投入を果たした。現在、国内の数カ所で施工が開始されているとのことだ。
また既に、湖や貯水池に加えて、ダムでの利用も視野に検討が始まっているという。そのためには、水位が変化したり、水が枯れたりする可能性のあるダムの特性を考慮したシステム、構造、メンテナンス性などを考えていく必要があり、課題も多い。さらにその先には、汽水域や海上での運用も考えられる。そうなってくると、より高い耐候性も求められるだろう。
盛り上がりを見せる水上太陽光発電。それを支えるフロート開発の今後も見逃せない。
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