使用済みリチウムイオン電池のリサイクルは今、どうなっているのか:今こそ知りたい電池のあれこれ(10)(3/3 ページ)
今回から数回にわたり、原料の再資源化(リサイクル)や電池の再利用(リユース)といった「持続可能な開発」のために希少な資源をいかに有効活用していくかといった技術や取り組みについて解説していきたいと思います。
大型リチウムイオン電池のリサイクルは?
小型民生用の使用済リチウムイオン電池についてはJBRCを中心としてリサイクルが進められていますが、EVや定置用蓄電池に使用されているリチウムイオン電池パックのリサイクルは現状確立された方法はなく、各社で研究、検討が行われています。
リチウムイオン電池パックのような大型電池のリサイクルは小型電池と比べると難易度が高いと考えられています。
解体作業の面だけで考えても、電池パックはそのサイズや重量が大きいうえにメーカーや型式によって形状もさまざまであること、外装が頑丈に設計されていること、小型電池よりも感電や発火のリスクが高いことなどが、リサイクルの難易度が高くなる要因となっています。
その他、リサイクル難易度が高くなる要因として挙げられるのは「品質」と「コスト」です。
小型電池と同様に、焼却および酸溶解、溶媒抽出処理で各種金属資源を回収することは可能ですが、回収資源の純度や品質、リサイクルコストと金属資源の価格を考えたときの採算性といった課題点もまた同様です。単に再資源化するのではなく、電池原料、特に正極活物質として再利用する場合に求められる品質水準の高さが技術的な難易度を高くする一因となっています。
そして、必要な処理設備への投資やリサイクル手法の開発検討に要する先行支出などのコストと、回収した金属資源の価格を踏まえたうえでのリサイクル事業の採算性も大きな課題の1つです。コバルトやニッケルといったレアメタルは高い価格を見込める一方、価格変動しやすい資源でもあることを考慮する必要があります。
また、近年リチウムイオン電池の正極活物質としてLFP(リン酸鉄リチウム)系の採用率が高まっています。LFPは主原料が鉄であり、原料ベースで安価なことが製品価格上のメリットではあるのですが、リサイクル事業の採算性という観点からは課題点にもなります。
リサイクルコストを下げる「地産地消」と「大量処理」
「コバルトフリー」や「モジュールレス」など、電池およびそれを搭載したEVなどの製品価格を低減させる取り組みが進められる中、リサイクル事業に恒常的な採算性を持たせるためにはリサイクルコストの低減を図っていくことが重要です。そのため関係各社は、より効率的な手法やレアメタルリサイクル技術の高度化によるリサイクルコストの低減を検討しています。
リサイクルコストの低減において考えるべきことは、効率的な新規手法の開発やリサイクル技術の高度化だけではありません。参考になる事例としてベルギーの素材メーカーUmicoreによるリサイクル事業があります。Umicoreは電池原料リサイクルを担う世界有数の企業であり、30億ユーロ(約3800億円)超の売上高のうち約20%をリサイクル事業が占めています。
Umicoreのビジネスモデルの特徴を端的にいうと「地産地消」と「大量処理」です。リサイクル工程に必要な処理施設を欧州圏内に集約しつつ、各地から集めた大量の廃電池を年間7000トンの高い処理能力でリサイクルしています。必要な処理施設を近距離圏に集約させる「地産地消」モデルで工程間の配送コストを抑え、高い処理能力で「大量処理」し、規模の経済性を発現させることでコストメリットを見出しています。
今回はリチウムイオン電池のリサイクルについてまとめてみました。今後、EVや定置用蓄電池の需要増加に伴い、ますます重要になる技術や取り組みである一方、大型の電池パックに対するリサイクルは現状確立された方法はなく、各社で研究や検討が行われている段階です。
また、リチウムが回収されずにスラグ(精錬廃棄物)とされる場合があるように、技術的に回収可能であることと、事業として恒常的な採算性を持てることは別であるというのが非常に悩ましい点かと思います。
リチウムイオン電池に関する報道を目にする機会が増えている昨今、リサイクルに対する取り組みがどのようにコストメリットを見出すものであるかを探るには、今回ご紹介したような「新規技術の効率」や「規模の経済性」について注目してみるといいかもしれません。
次回は「再資源化」(リサイクル)と同様に今後重要となるであろう「再利用」(リユース)について解説していきたいと思います。
著者プロフィール
川邉裕(かわべ ゆう)
日本カーリット株式会社 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼日本カーリット
http://www.carlit.co.jp/
▼電池試験所の特徴
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/
▼安全性評価試験(電池)
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/safety.html
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